恋した男が妻帯者だと知った途端、生理的にムリ!ってなったからもう恋なんてしない。なんて言えないわ絶対。

あとさん♪

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22.目まぐるしい日々の中、不穏な香り

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 ちなみに万国博覧会とは。
 世界各国が参加する、技術や芸術の粋を集め展示公開する国際的な博覧会なんだって。我が国で開催されるのは初。約六ヶ月先には王都のはずれにある王家の私有地がその会場として一般公開されるとか。
 今それ用の建物を建築中なんだとか。

 ……知らなかった。本当にわたしはもの知らずのおバカさんだ。反省しよう。
 一年以上前から(商人なら)知らない人はいないくらいに話題にのぼっていたのだとか。ヴィーノさんは商人じゃないけど商会に常駐する関係上、知ってるって。

 冒険者が多く利用する定食屋にいたわたしは、どこのダンジョンで実入りがいいとか、そういう話はよく聞いていたけど、やっぱそれだけじゃダメだ。世の中の流行はやりも知らないと!

 それはともかく。
 新商品の宣伝ポスター(万博用)にアイリーンさまを起用することが決定した。でもこれは極秘事項なんだって。
 一般庶民向けの宣伝ポスターは女優Aに決定。彼女に決まった理由は契約費の安さと本人の将来性。これから売れっ子になるだろう女優さんで、親しみを覚える雰囲気が決めてだったのだとか。(アイリーンさま談)
 一般庶民向けポスターは早々に着手。絵師さんの腕は確かだった。
 最新式の印刷機って多色刷りってのが出来るらしく、何色も使って色鮮やかに刷り上がったポスターを見たときは、ちょっと感動したわ。口紅の色がちゃんと新色だったもん!

 それはともかく。
 お陰で忙しさが倍増したよ! 目まぐるしく日々が過ぎていったよ!
 通常業務だってそれなりに大変なのに、さらに万博用の特別チームが組まれ(実はわたしもそのメンバーだったりする。わたしの担当はアイリーンさまの特別ポスター制作)彼らは通常業務と万博用業務の両方に大忙しになった。
 人手が足りなくなって、わたしが本店の販売窓口に立つ日もあった。
 ローズロイズ商会は化粧品を主に販売しているけど、香水とか、女性用のちょっとしたアクセサリーとかも取り扱っている。販売窓口に立つと、それらの商品補充のためにじっくり見ることができて、ちょっとだけ嬉しかったりする。
 だってキレイなものって見てるだけで嬉しくなるもん。

 慌ただしく過ぎていく日々の中で、経理のお仕事にも携わるようになった。
 わたしを駆り出すくらいだから、本当に人手不足だなぁって思う。
 各支店ごとの売上表を作って、それらを月ごとに纏めて。過去の資料を引っ張り出してきて年間売上表を作ったら、売り上げが落ちる特定の月が分かったりして面白かったな。
 外商部(商業ギルドをとおして他の商会にうちの商品を預けて売って貰ってるの)は売上金額はすごいけど、その分、かかる支出もそれなりにあるってのが分かったり。

 経理だけではなく、開発担当部署にも顔を出すようになった。開発部は王都のはずれの森の中にあって、独立した研究所みたいな雰囲気の建物だった。
 白衣を着た担当者とも顔見知りになって、わたしがお茶を振る舞ったり。
(あ、そうそう。お茶ね、美味しく淹れられるようになってきたんだ。一日一歩、だもんね!)
 進捗状況を確認したり、試作品を試してみたり。アイリーンさまのお使いで行く日もあれば、お伴として一緒に行く日もあった。もちろん、そんなときはアルバートさんも同行してくれてるよ。


 商業ギルドとの話し合いもあったり、さらに貴族向けの販売もあったり、アイリーンさまはそれのどれにもお顔を出すから、本当に大忙しなんだってのを、実感した数ヶ月だった。
 シェリーさんから引き継ぐ業務が増えるにつれ、お伴するわたしも当然大忙しに。アイリーンさまの秘書だからね。

 アイリーンさまの秘書業務をしつつ、同時にポスター制作にも力を入れた。
 実は、超最新式写実印刷機ってのがあるんだって! これは本当に最新式の魔導具で、設計及び作成者はアイリーンさまの実のお兄さまなのだとか。これを展示・紹介するブースも万博にはちゃんとあるんだって!
 で、超最新式の印刷機を身内特権とやらで使えるようになったお陰で、同業他社とは差別化が測れそうなの。ふふん。

 本当に、生きているそのままの絵が、自然な色のままに出来上がるの! 凄いのっ! しかも数秒だけど動くのよ! 紙の上で絵が動くって凄くないっ? 凄いよね!
 試し刷りを拝見させていただいたときは震えたわ……。花がね、風に揺れるの。もう、本当にそこにあるみたいに見えるのっ! アイリーンさまも素晴らしいけど、おにいさまも凄い人なんだね!

 でもね、一枚にかかる費用も半端ないってロブ副会長に言われてるから、ほいほい試作ポスターは作れない。
 従来通り、絵師さんと相談していろんなパターンで構図を描いて貰って、その中から候補を上げて……って大変だったけど充実した日々を送ってる。
 だって毎日うつくしいアイリーンさまの絵を見比べられるからね! ご本人にもうっとりしちゃうけど、絵になったアイリーンさまもまたいいの!
 役得ってこういうことを言うんだって分かったよ。


 ◇


「今日の業務もご苦労さま。ちゃんと休むのよ。明日もよろしくね」

 遅い時間にロイド邸に着くと、アイリーンさまはそう言ってわたしを解放してくれる。後のことはレイさんがやるからって。

「はい、お疲れさまでした、おやすみなさいませ」

 お辞儀をしながら挨拶をすると、アイリーンさまはレイさんをお伴に二階の自室へと戻っていった。
 うーん。この後もサインする書類が数件あるって言ってたなぁ。
 アイリーンさまの寝る時間、どれくらいあるんだろう。
 でもこの忙しさも万博開催までって聞いている。あと二ヶ月くらい、だね。もうひと踏ん張りだ! って思うけどさ。
 万博が開催されるころにはシェリーさんも本格的に産休に入ってしまうだろうし、万博自体は一ヶ月続くって聞いてるし。
 つまり、わたしの忙しさは相変わらずだろうなぁって思う。
 要するに、アイリーンさまの忙しさも相変わらずってことで。やっぱり増員した方がいいと思います。とほほ。

 わたしは地下階にある自室へ。
 寝る前に使用人専用のシャワー室(そんなものまであるんだから凄いよね、ロイド邸って)で汗を流すと、明日の着替えの準備とアイリーンさまの予定を確認してベッドへダイブ。
 最近は疲労度がアップしたせいかすぐ眠れるの。明日もアイリーンさまのお化粧は、わたしが担とぅ……オヤスミナサ ……ZZZ



 ◇ ◇ ◇(ロイド邸執務室)


「こちらをご覧ください。本日の昼間の出来事です」

 ロイド邸の男装家令が彼女の主人に提示したのは、このロイド邸の正面玄関を映した記録水晶だった。
 最新式魔導具で、不審人物が近づいたとき自動で録画される。これを設置したお陰で少人数での邸管理が可能になったのだが。

「これは……ジェフリー?」

 執務室の壁に向かって映し出された映像は、この家の女主人が四か月ほど前に離婚した元伴侶、ジェフリー・ロイドであった。
 音声のつかない映像には、ロイド邸の正面玄関で辺りをキョロキョロと伺うジェフリー・ロイドの姿があり。
 彼は無人の状態であることを確認したあと、己のトラウザースのポケットから何かを取りだした。
 そしてその何かを玄関のカギ穴に差し込むと、扉を開けて入邸した。
 映像はここで終わった。

「なんて、こと……彼はわたくしがいない昼間に侵入していたと……?」

 女主人、アイリーンは真っ青な顔で口元を押さえた。

「人がいなくなる時間帯に侵入されました。どうやら合鍵を作られていたようです。不覚をとり申し訳ありません」

 頭を下げる家令に対し、アイリーンは謝罪の必要を認めなかった。彼がいつの間に合鍵を作製したのか不明だが、不法侵入した彼はこの邸の状態をよく知る人物なのだ。家令の落ち度と呼ぶのは酷だろう。

「彼の侵入目的はなに? 推測できて?」

「恐らくは金銭目的かと。しかし、あなたさまへの恨みか……メグへの執着という線も捨てきれません」

 アイリーンは家令があげた推測に、背筋が凍るような心地になった。

「金目の物が盗まれた形跡は?」

「玄関ホールに飾られていた絵画が一点、銀食器など銀製品が数点紛失いたしました」

「そう……盗難届は出した?」

「はい。記録水晶のコピーと一緒に届け出ました。同時に玄関の鍵を変更させました」

「……そう。ではこれ以上の不法侵入はないわね……もしかして彼、もう王宮での職は失っている、ということ?」

「はい。アイリーンさまと離婚後、一ヵ月もせず退職届を出して離職していました。その後、行方をくらませております」

「狙いが金銭だけならいいのだけど……なにか不審物がこの邸に仕掛けられてはいない?」

「ひととおり確認済ですが、いまのところ不審物は発見されておりません。特に、アイリーンさまの私室と……メグの私室は念入りに調べております」

 家令の報告を聞いたアイリーンは、これ以上元伴侶の不法侵入がなければいい。そう思った。


 ◇ ◇ ◇

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