恋した男が妻帯者だと知った途端、生理的にムリ!ってなったからもう恋なんてしない。なんて言えないわ絶対。

あとさん♪

文字の大きさ
上 下
14 / 48

14.アルバート・エゼルウルフさまは、はっきりスケベ

しおりを挟む
 
「よぉ。話は聞いている」

 現れた騎士さま改めエゼルウルフさまは、ローズロイズ商会の守衛さんの黒服姿だ。
 開口一番の彼のお言葉にげっそり気分のわたし。そうですか、お話聞いていますかー。あのバカヤローからの護衛任務なんて、ほんとうに申し訳ない。

「お手数をお掛けします」

 エゼルウルフさまが隣を歩いてくれる。廊下に出て、階段を下りて、また廊下を歩き、わたしが入館した裏口の扉を開けてくれた。

「エゼルウルフさまは、本来はこのローズロイズ商会の守衛さんなんですよね? それなのにわたしの護衛も、してくれるんですか?」

 外に出てからそう訊いてみた。
 シェリーさんはエゼルウルフさまを『アルバート卿』と言ってた。『卿』という敬称がつくのは貴族だ。貴族なのに、護衛なんてしてるの?

「あぁー、うん。本来の俺は……うん、今は守衛さんだな。……あれは粘着するかもしれないから用心してくれってアイリーンから聞いてる」

 うわあ。
 あれ、粘着するのかーとか。アイリーンさまにもご心配おかけしちゃってるのかーとか。

 アイリーンって呼び捨てなのか、とか。

 なんかいろいろ思うところが多すぎる。

「あー。オ手数ヲオ掛ケシマスー」

 面倒事を引き受けてくれた人に対して、なんだか心のこもっていない返しね。へんなの。我ながらそう思う。……んん? なんで?

 自分で自分の考えがよく掴めない。
 背の高いエゼルウルフさまの背中を追って歩きながら、この胸のモヤモヤを考えていたら。

「ん」

 目の前に大きな手の平が差しだされた。
 ん?
 見上げればエゼルウルフさまが、わたしに自分の手を差しだしている。はて。この手はなんでしょう?

「はぐれないように、手を繋ごう」

 そういえば、エゼルウルフさまと初めて会った日もこうやって手の平を差しだされた。たぶん、あのときの手は馬車に乗るための補助に使えって意味だったんだなぁって、今なら解る。

「はぐれませんよ」

 子どもじゃあるまいし。そりゃあ、城下町で商店街だから人通りは多いけどね。

「ま、いいからいいから」

 エゼルウルフさまはそう言うと、問答無用でわたしの手を握って歩きだした。

「や、よくないですっ」

 振りほどこうとしても、大きな手にがっつり掴まれていて離せない。
 硬い手がなんだかとっても温かい。がっつり掴まれているけど、痛いわけじゃない。

 ところで、ふたりで手を振り回しながら歩いている図になってるよ? 変じゃない? 変だよね⁈ いい歳して、オカシイよね⁈ 手を繋いでぎゃーぎゃー言いながら歩いているって、変だよね⁈
 なのにエゼルウルフさまはわたしの抵抗をものともしない。

「若くて可愛いオンナノコと手を繋ぐチャンスを俺にちょうだい?」

 なんだ? それは!
 どうしてそこで今まで見た中で一番の笑顔になっているの⁈
 胡散臭くて逆に不自然ですよっ‼

「げっ! 下心は隠してこそですよっ! 表に出したらただのスケベですよっ」

 はっきりスケベめ! 

「男だからね」

 正直か‼

 わたしがぎゃーぎゃー言っても手を離してくれないまま、いつのまにか商店街を歩いて移動していて。
 あれ? この通りは見覚えがあるぞと意識の半分くらいでは考えていたけど、それより先に手を離してもらいたくてそれにかかりっきりになってた。

 話しながら歩いて移動した場所は、わたしが働いていた城下町の定食屋『紅いそよ風と緑のともしび』の前だった。

「あれ以来、ここに通うようになってさ。美味いな、この店」

 笑顔であっけらかんと口にするエゼルウルフさま。とても口先だけの感想だとは思えなくて、わたしも笑顔になってしまった。

「そうなんです! おじさん、顔は怖いけど腕は確かなんです!」

 あれ。顔が怖いは余計なことだったかな。でも嘘は言ってないよ、嘘は。
 内心ちょっとだけ焦り始めたわたしを知ってか知らずか、エゼルウルフさまは『そうそう』と相槌を打ってくれる。
 そして。

「店主夫妻がきみの心配してたからさ。顔見せしておいで」

 そういってお店のドアを開ける。ドアにつけられたベルがからんと鳴った。彼は開けたドアを押さえたまま、わたしの背中をそっと押して店内へと進ませた。

「あー、悪いね。昼定食は終わっちまった、よ……メグ!」

 新たに入店したお客に気がついたおばさんが声をかけて……入店したのがわたしだと分かると、嬉しそうな声をあげてわたしに駆け寄ってくれた。


 ◇


 わたしが青の騎士さまに連れられてロイド女男爵バロネスさまのお邸に行ってから、気がつけば3ヶ月も時間が経っていた。
 その間、青の騎士さま……じゃないね、エゼルウルフさまはこの定食屋に通ってくれてたんだって。
 レイさんやアイリーンさまから聞いたわたしの様子を、おじさんやおばさんに教えてくれていたんだって。

 昼食の時間も過ぎお客さんの波が一段落ついた定食屋の片隅のテーブルで、わたしはおばさんからそんな話を聞いた。
 おじさんは厨房でがしがし音を立てながら鍋を洗っている。

「いやー、メグはその侍女服姿も似合ってるね!」

 わたしの対面に座ったおばさんが嬉しそうに言う。

「それに、なんだか姿勢が良くなったんじゃないかい? シュッとしてカッコいいじゃないか! いいとこのお嬢さんって感じがするね」

 座っていても、背筋を伸ばして手は膝の上で、足を揃えているからかな? ちょっとまえまでは、この姿勢をし続けるのがつらかったけど、いまは大丈夫になってきた。慣れってあるんだね。

「いいとこのお嬢さんっぽい?」

「ぽいよ~」

 おばさんの明るい笑顔が懐かしい。三ヵ月まえまでは毎日見ていたのに……。

「おばさん。あのバカヤローがこの店にも来てたんだって?」

 わたしは『バカヤロー』ってあの人ジェフリーの名前を言わないで訊いたけど、通じるもんだね。おばさんは表情を苦々しいものに変えると吐き捨てるように言った。

「あぁ。来たよ。『メグはここにはいないよ』って、あたしとうちの人が睨みをきかせてからは来てないけどね」

 うわー。どんな睨みをきかせたんだろう。
 そういえばおじさんもおばさんも元冒険者で結構強かったんだよね。おばさんが表情を変えたせいか、闘気? みたいなものが辺りを漂った。心なしか店内の空気が冷え冷えとしてるよ。

「あれだけのことしておいて、よくもまぁノコノコと来たもんだと感心したよ」

「ごめんね、迷惑かけて」

「いやいや。あんたに被害がないならそれが一番だからね」

 そんな話をしていたらおじさんが一皿持って厨房から出てきた。わたしの前にコトリと音を立てて置いた一皿は、サラダと甘辛く味付けしたパスタと特製のタレで焼いたひな鳥。そして小皿にパンプティング。

「食ってけ」

 それだけ言っておじさんは厨房に引っ込んでしまったけど、これまかない食だよね? 働いていないわたしが食べてもいいものじゃないよね?

「あんたがロイド女男爵バロネスの家にいるなんて、ひとっことも話していないからね。安心おし」

 おばさんはそう言いながらわたしにフォークを持たせる。気にしないで食べなさいってことかな。
 ありがたいな。おじさんとおばさんはいつもこうなんだよね。わたしの顔を見るとなんか食べさせたがるの。ふたりとも、あったかいんだ。

「あー。でも今日、会ってきちゃった」

「えぇっ⁈ なんだって⁈」


しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

研磨姫と姫王子 ~初めての殿方磨き!?~

つつ
恋愛
原石を磨くことだけに情熱を捧げる”研磨姫”こと公爵令嬢ケイティ (15) と、病弱で気弱な性格から ”姫王子” と呼ばれることになった第三王子エリオ(15)。 ある日、偶然、姫王子を目にした研磨姫はこう叫んだ。 「わ……わたくしの――原石!!!」 そこに輝き秘めたる原石あれば、磨きたくなるのが研磨姫。 原石扱いされた姫王子には、受難の日々が待っていた――!? ※たぶんラブコメです。ラブ薄め、コメディ薄め……あれ、何か残った??

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」 王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。 その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。 彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。 一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。 しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。 それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。 娘を嫁に出したくない侯爵。 幼馴染に想いを寄せる令嬢。 親に捨てられ、救われた少女。 家族の愛に飢えた、呪われた王子。 そして玉座を狙う者たち……。 それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!? 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

処理中です...