16 / 18
◇超番外編◇
◆初夜 Long Ver.②
しおりを挟む(……かわいい……)
上目遣いで見つめ幼気な少女のような顔をするから、ジャスティンの胸の鼓動はいや増してしまう。
それになにより、この至近距離から見上げられるという姿勢は!
胸が!
ミハエラの豊かな胸の谷間が視界の中にっ! すぐそこにっっ!!
目のやり場に困るとはこのことか!
「……自分には、すぐには、無理です……」
視線をどこに向ければいいのか分からない。
夫なのだから呼び捨てにしろと言われても、この緊張がすぐに解けるとはとうてい思えない。
あまり酒に酔わないジャスティンだが、急に頬に熱が集まったという自覚が芽生えた。
ミハエラ――彼の妻が、そばにいるせいだ。
「ふむ。つれない男だな、おまえは」
ミハエラはそんなことを呟きながら、ジャスティンの膝に手を置き…………
「み、ミハエラさま、そのっ……」
彼が呆然としているうちに、その膝の上に乗ってしまった。
太ももの上にミハエラの柔らかな尻が乗る。
しかもっ
彼女の形の良い脚が惜しげもなく開いて――
「なんだ?」
ジャスティンの腰を跨ぐ形で向き合っているではないかっっっ!!!
「あの、そのっ……急にっ自分の膝の上に乗ってくるのは、そのっ、なぜでしょうか!」
しかもミハエラの柔らかくおおきな胸が、ジャスティンの固い胸板に押し付けられている。
彼女の腕が両肩に回されて……これは俗に『抱き締められている』という体勢なのではなかろうかとジャスティンの緊張はピークに達した。
自分の後頭部を撫でる気持ちのよい手はもしかしたらミハエラなのでは? そう思うだけで心臓が口から出そうな心地になるし、変な汗をかいているような気がするし、相変わらず視線をどこにむけたらいいのか謎だし……とはいえ、目の前にはミハエラのうつくしい容貌が迫っている。
その若草色の瞳から目が逸らせない。
「今夜が初夜だから、だろう? ここはベッドの上だし。 おまえは背が高いが、わたしが膝の上に乗ったら近くなるから内緒話もしやすいぞ?」
ミハエラが妖艶に微笑みながらそう囁く。
「え、あ、いや、その、あの」
この人は魅了の魔法も使えたのだったか。
そんな考えも頭の隅をかすめた。その頭の隅が甘く痺れる。
いま、彼の目の前にいるミハエラ・ナスルは『初めてみる女性』だった。
『戦場の戦乙女』ではない。ただのミハエラ。その若草色の瞳の奥に視える感情は――。
「――ジャスティン」
額と額を合わせた距離でミハエラが囁く。
「はい、ミハエラさま」
どこか切なげな表情に見えて、ジャスティンの胸が高鳴った。
この天から使わされた麗人に自分ごときが触れてもいいのだろうかと疑りながら、おずおずとその細い腰に両手を添えてみる。手の平に伝わる体温までもが柔らかくてクラクラする。
目の前のミハエラの笑みが少しだけ深くなった。
ジャスティンの行動は間違っていなかったらしい。
拒否されないことが嬉しくて、もっと大胆に触れてもいいのだろうかと思った矢先。
「わたしの腕を縛ってくれないか?」
切なげな表情のまま、ミハエラが突拍子もないことを囁いた。
ジャスティンは一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
(縛れ? ご自分の腕を縛れと言ったのか? えぇぇぇぇぇええええ????)
「……はいぃぃぃいいいっ?⁈? なぜですかっ」
言われた内容が理解できたあと、思わず叫んでしまったが許してほしいとジャスティン思った。
ジャスティンの動揺も無理からぬことだとまじめくさった顔で頷くミハエラがなおも口を開く。
表情は変わらず真剣なままだ。
「なんだか無意識に攻撃魔法をぶっ放しそうな気がするんだ」
発言内容が物騒で、その真剣な瞳にジャスティンも飲み込まれてしまう。
「むいしきに、ですか」
考えてみれば息を吸うより簡単に攻撃魔法を使う人だ。言うこともぶっ飛んでる。
「あぁ。なんせ、ダンスステップを習ったときにもパートナーの足を踏みにいった女だからな、わたしは。それも無意識であったよ」
「はあ」
(対面する相手はすべて敵認定してしまう?……ということだろうか)
「どうやらわたしは、正面に立つ相手をぶっ飛ばさないと気がすまないという業を負っているらしいんだ」
「ごう、ですか」
“業”というのは生まれ持った運命のことを指す。
ダンスであろうと戦場であろうと、自分の前に立つ者は倒す相手だと認識する。そんな運命。
だからこそ『魔戦場のミハエラ』と呼ばれるほどになったのだろう。
普通の『戦場の戦乙女』ならば、先陣を切って進んだりはしないと聞いている。
ミハエラは特別。
特別に天から選ばれた人間なのだ。だからこそ、普通の人間とは違う悩みもあるのだろう。
ジャスティンはそう納得した。
「無意識にやってしまうのが問題で……愛するおまえ相手ならなんとかなるかもしれないが、愛する男を閨でぶっ飛ばす花嫁は、さすがのおまえでも嫌だろう?」
ミハエラのうつくしい眉が困ったように下がった。
いつも明るく自信満々なミハエラとは違う。
どこか自信なさげで頼りない……儚く、守ってあげなければと思わせる……。
(このひとに……こんな困ったような顔、してほしくないな……)
ミハエラはジャスティンに言ってくれた。
わたしの背中を守ってくれと。
あれはつまり、自身の弱点を補完してほしいという願いだ。その弱点を晒してもいい相手にジャスティンを選んでくれたのだ。戦うことがすべてというミハエラの絶大な信頼の証。
19
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
【完結】忌子と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢、追放され『野獣』と呼ばれる顔も知らない辺境伯に嫁ぎました
葉桜鹿乃
恋愛
「よくもぬけぬけと……今まで隠していたのだな」
昨日まで優しく微笑みかけてくれていた王太子はもういない。
双子の妹として産まれ、忌子、とされ、王家に嫁がせ発言力を高めるための『道具』として育てられた私、メルクール。
一つ上の姉として生きてきたブレンダが、王太子に私たちが本当は双子でという話をしてしまった。
この国では双子の妹ないしは弟は忌子として嫌われる。産まれたその場で殺されることもある。
それを隠して『道具』として育てられ、教育を施された私はまだ幸せだったかもしれないが、姉が王太子妃の座を妬んで真実を明かしてしまった。
王太子妃教育も厳しかったけれど耐えてきたのは、王宮に嫁ぎさえすればもうこの嘘を忘れて新しく生きることができると思ったからだったのに…。
両親、そして婚約していた事すら恥とした王室により、私は独身で社交性の無い、顔も知らない『野獣』と呼ばれる辺境伯の元に厄介払い、もとい、嫁ぐ事となったのだが、辺境伯領にいたのは淡い金髪に青い瞳の儚げに見える美青年で……?
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも別名義にて掲載予定です。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
もしかして俺は今、生きるか死ぬかの岐路に立っているのではなかろうか
あとさん♪
恋愛
あぁぁ。落ち着け俺。たった今、前世の記憶を取り戻した途端、切羽詰まった状態なのを自覚した。
これってまるで乙女ゲーム?
そのクライマックス!
悪役令嬢断罪シーン?!
待て待て。
この後ざまぁwwwwされるのって、もしかしてもしかすると
俺なんじゃねぇの?
さぁ!彼が選び取るのは?
Dead or Alive !
※ちょいちょい女性に対する不適切な発言があります。
※お心の広い人向き
※オタクを許して
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる