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◇超番外編◇

◆初夜 Long Ver.①

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◆『小話※初夜※会話文のみ』に地の文を加え改稿しました。
 「会話」そのものは変えていません。
 違いをお楽しみいただくのも一興。かも。
<(_ _)>
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 ミハエラ・ナスルはとても不愉快な目にあった。
 幼馴染みでもある若き辺境伯の口車に迂闊にも乗せられ、王都くんだりまで出向いてしまったせいだ。
 王宮での扱いは良かったが、その次の公爵家での扱いがサイテーだった。

 気分を害した。

 とはいえ、彼女が心に決めた相手を説得(笑)して連れ帰ることには成功したので、喧嘩両成敗というか一勝一敗というか。
 ミハエラは、物事にこだわらない(悪く言えば忘れっぽい)性質たちなので、王都での出来事は水に流すことにした。じっさい、セルウェイ公爵あんな男などどーでもいいやと思った。

 彼女は大地の精霊ノームの加護がある。
 不愉快な王都から一刻も早く帰還したかったミハエラが、その加護を使わないわけはない。
 硬直しているナイトリー団長(いや、退団してただのナイトリーになった)をしっかりと抱きしめ、その懐に顔を埋めると大地の精霊に願う。

「おうちに帰る!」

 大地の精霊ノームが支配する地中という名の亜空間をあっという間に進むこと、瞬きひとつ。

 ジャスティン・ナイトリーは深呼吸を一回している間に、緑溢れる見慣れぬ地――フィーニスのナスル領――に移動していた。




 ◆ ◇ ◆



 ジャスティン・ナイトリーが目を白黒させているあいだに、すべてが終わってしまった。
 すべてというのは、あれだ。
 世に言う『結婚式&披露宴』というやつだ。

 あっという間にフィーニスに連れてこられ、あっという間にミハエラさまの家族に紹介され、あっという間になにかにサインをして、あっという間に歓迎の宴とやらが始まって、いつの間にかフィーニス辺境伯までそこにいて

「ミハエラをよく監督するように」

 などということばをいい笑顔とともに貰ってしまった。両肩をがっつり叩かれながら。

「もしミハエラが俺よりさきに生まれていたら……いやあ、アレが男に生まれていたら、間違いなく辺境伯と呼ばれていたのはアレだから。おまえ、勇者だから」

 などと言われたが、わけが分からない。

(辺境伯閣下は……ヤンさまは、こんなお人だったであろうか)

 魔獣討伐連合軍の総司令官だったフィーニス辺境伯ヤン・ヴァルクは、作戦指揮を執ったかと思えば、あちらこちらの戦場に現れピンチを救って回るという『冷静な指揮官であり優秀な戦士』というイメージだった。

 だが今は酒の入ったジョッキを片手に良い笑顔だ。
 身内認定されたせいなのか、やけに気安く親し気でゼロ距離。ジャスティンは戸惑うばかりである。

 辺境伯ばかりではない。
 親し気なのはナスル家の家族や、そこに集まったすべての人間。
 スタンピードのときに見知った男たちに囲まれ酒を飲まされやんやともてはやされ(酒に強いのは良いことだと言われた)、気がついたときには暗く静かで落ち着いた部屋の中央に鎮座したおおきな寝台の片隅に座っていた。
 ベッドサイドにある小さなランプの火がちろちろと揺れる。

(……あれ?……)

 自分はいったいなにをしているのだろう。
 ふとそんな疑問が脳裏をよぎる。

 どちらかと言えば控えめで、あまり強く自己主張できない性質たちではある。だがそれにしても流され過ぎなのでは……。
 そんなことを考えていたら、静かにドアが開き部屋にひとりの人物が入ってきた。

「……ミハエラさま……」

 部屋に入ってきたのはミハエラ・ナスル。
 ジャスティンを丸めこみ怒涛の勢いでここまで連れてきた彼の女神。
 湯浴みをしたのか髪が微かに濡れている。そしていい匂いがする。

 さらに、なにやら薄手の夜着に身を包んでいる……!!!!!

 柔らかそうなミハエラの豊かな胸から腰、腰から足までが明確であった。
 しかも透けている。
 彼女の胸の頂きとかへそのくぼみとかその下の…………。

(そ、そのお姿では……いろいろとはっきりと判ってしまうではありませんかっ……!!)

 これは眼福と言っていいのだろうか。
 この期に及んでジャスティンはなにかの罠ではなかろうと懐疑的になってしまった。

 これはまぼろしかもしれない。
 瞬きをしたら、彼女は自分の目の前から消えてしまうのではなかろうか。

 身動き一つ取れずに、ただ、ミハエラが自分に近づいてくるのを見つめるのみ。

 そんな緊張しきったジャスティンにミハエラは。

「ナイトリー……いや、もうジャスティンと呼んでもいいよな?」

 極上の笑顔をみせジャスティンの隣にすとんと座った。
 とたんに、彼女から発せられる芳香に包まれたような心地になった。

「はい、ミハエラさま」

 ジャスティンは夢見心地のまま返答する。
 そばに。自分のすぐそばに、具体的にはとなりに! 女神がいるのだ!

 黄金の髪。
 若草色の瞳。
 香しき芳香。
 その名のとおり、天から使わされた人なのだとジャスティンは思った。

「“さま”は要らないぞ? おまえはわたしの夫なのだから」

 小首を傾げジャスティンの顔を覗き込むようにしながらミハエラが言う。
 黄金の髪がさらさらと肩から零れ落ちる。その動きに合わせ馥郁ふくいくたる香りがジャスティンの鼻をくすぐる。

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