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22.結婚披露パーティー

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 ルチアの日頃の勤勉さに精霊がご褒美をくれたのか、とても気持ちよく晴れた日だった。
 デル・テスタ男爵家で行われたガーデンパーティーは盛況で、男爵家の親類や商会の従業員たちもおおぜい集まってくれた。商会の従業員もデル・テスタ家のだいじな家族であると、男爵本人がいつもことあるごとに言っているからだ。
 ルチアにとっても昔からの顔馴染みの者が多く、集まったみなが口々にルチアとグスタフを祝ってくれた。

 ルチアの学園生時代の親友まで顔を出してくれ、ルチアを祝ってくれた。
 彼女はルチアの両親から今日のパーティーの話を聞き、嬉しくて飛んできたのよとルチアに語った。知らぬは本人ばかりなり、である。

 第二王子宮からはファナが来た。『わたしが同僚代表』と言ってルチアの顔を見てお祝いを述べるとすぐに帰っていった。ルチアの抜けた穴はきちんと埋めてやるから安心して休暇をすごせと言われたが、正直すぐに職場復帰したい心地もあるからルチアも厄介な人間である。

 グスタフの所属する第二騎士団の仲間も訪れ祝ってくれた。
 どうやら勤務交代の合間を縫って来てくれているらしい。在りし日のルチアが、仕事の隙をみて親友の結婚披露パーティーに顔を出したことを懐かしく思い出した。

 そして一番驚いたのは、会場となった男爵家の庭園のそこここに美しい花が飾られていたこと。花を飾ることはよくあることだが、その花が第二王子妃の名前で贈られたと知らされたときだ。
 ルチアは驚き過ぎて口もきけなかった。

(あ! ポーラ卿の言ってた『妃殿下のお使い』ってこれのことだったの⁈)

 敬愛するセレーネ妃がルチアのためにお花を贈ってくれたことは純粋に嬉しかった。

(やっぱり、おめでとうって言われるの嬉しいなぁ)

 なによりも嬉しいのは、訪れてくれた人がみな笑顔だったことだ。
 笑顔でルチアたちを祝福してくれたこと。
 お天気もよくて、キレイなドレスを着て、みんなが笑顔で。
 そして隣には愛しいグスタフがいて。

 ちなみに用意されていた食事(立食形式)も美味しかった。
 こんなに食べる花嫁は見たことがないと母に嘆かれたが、食事を見逃すルチアではない。少量ではあったが、全種類制覇し満足した。さらに蛇足だが、少量にしたわけはいつもよりきつくコルセットを締められたせい。これがなければもっと食べられたものをと、母を(少々)恨めしく思い睨んだりした。

 グスタフは料理を取り分けたり小皿をルチアへ差しだす等、甲斐甲斐しく彼女の世話を焼く。
 彼は終始嬉しそうにルチアに寄り添い、穏やかな目で彼女を見守っていた。

 ふと親友のことばを思い出した。

『人生で一番着飾って、みんなに可愛い、綺麗ね! って褒められて、旦那さまとお幸せにねって祝福される場よ? 精霊もたくさん集って祝福してくれる場なのよ⁈』

 友のことばは古臭いような気もするし、だからこそ普遍的で真理なのかもしれないと思った。

(やっぱり、そういう特別な日があってもイイのかもしれないなぁ)

 やけに空がキラキラと光って見える気がする。
 精霊がたくさん集まって祝福してくれているのかもしれない。
 見えないからよく分からないけれど。

 幸せいっぱいになったルチアに残る問題点はあとひとつ。

(どうやったらラブラブになれるのか!)

 結婚以来ルチアがこっそり悩み続けている大問題である。

(結婚披露パーティーもやったし、あとは初夜だよね⁈ 愛してるって言ってくれたし、グスタフは手を出してくれるよね⁈)

 ここまでやって白い結婚継続なんてなったら目も当てられない。

(あれ? だけど今晩はどこに泊まるのかな)

 このままデル・テスタ家に泊まるのだろうか。
 でも両親のいる邸で初夜なんて……ちょっと、嫌だ。

(うちは離れとか別棟とかないし……)

 実家のゲストルームでことに及ぶのは……、ちょっと勘弁して欲しい。
 とはいえ、王宮のいつもの家族宿舎に戻ったら、また仕事中心の意識になってしまうかもしれない。
 とくにルチアはその傾向が強い。今でもちょっとだけセレーネさまのお側に行きたいと思ってしまうくらいだ。

(どうしたらいいの?)

 ルチアが人には言えない悩みで悶々としている間に日も暮れ、結婚披露パーティーはだれもが笑顔でお開きになったのだった。


 ◇


 お祝いに来てくれたお客さまをお見送りし、ルチアは両親に挨拶をするとグスタフに促されるままデル・テスタ男爵家をあとにした。
 男爵家から馬車を一台借りて向かった先は、王都一の豪華さを誇る超最上級ホテルだった。

「グスタフ? ここって、わたしの記憶が確かなら旧公爵邸じゃないかな? 上位貴族専用の王立ホテルだったんじゃないのかな? なんでこんなお高いとこに来たの?」

 一泊の支払いがいくらになるのかと怯えながら問えば、グスタフはだいじょうぶだと答えた。

「別に、上位貴族専用ってわけじゃないらしい。それに」

「それに?」

「ぜんぶベネディクトさまのご配慮だ」

 べねでぃくとさまってだれだっけと一瞬呆けたが、ルチアの敬愛して止まないセレーネ妃の旦那さまで、本当の雇い主である第二王子殿下に他ならない。

「殿下のご配慮?」

「ゆうべ、ここを俺たちのために借りたという話を殿下から聞いた」

「ふぇぇぇぇ……?」

「ここでゆっくり過ごすように、と。……だとも……あぁ、昨日のルチアの面倒なお客さまに対応したも含んでいるそうだ」

「ひぇえぇぇぇ……」

 支払いの必要はないと押し切られたと、グスタフは肩を竦めた。
 滞在期間も、いっぱい居ていいらしい。
 殿下ったら、いくら信頼するグスタフのため(ルチアへのご褒美も含まれてる)とはいえ、なんという多大な『ご配慮』をしてくださったのか。こんな、超高級ホテルなんて王族のお供でないと足を踏み入れることも叶わなかっただろうにとルチアは遠い目になってしまう。

「俺もゆうべはそういう返ししかできなかったよ」

 呆然とするルチアのようすに、グスタフは乾いた笑いを浮かべながらポツリと言ったのだった。

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