21 / 24
21.もしかしてプロポーズ
しおりを挟むグスタフが父に語った話の中で、結婚披露で着飾ったルチアを見れず後悔したという旨のことばがあった。あれが嘘でないのなら、その後悔が払拭されたということだろうか。
グスタフはドレス姿のルチアをどう思うのだろう。
「どうかな。似合ってる?」
「結婚してくれ!」
この人はなにを血迷ったのかとルチアは可笑しく思う。
「うん、もうしてる」
「あ、あぁ」
グスタフがその場で片膝立てて跪いた。そうなるとふたりの顔の距離が近づき、さすがにルチアが見下ろす高さになった。
「グスタフ?」
「ルチア。ドレス似合う」
目を細めうっとりと呟くグスタフに、なんだか可笑しいような調子が狂うような不思議な心地である。
「ありがと……結婚披露パーティー、これからしてくれるんだって、おかあさまから聞いたけど……提案したのはグスタフ?」
グスタフは静かに首肯いた。
「夫人に……お義母上に相談した。きちんと挨拶に来れるのなら考えましょうと言われた」
なるほど。
それで今日の父への『挨拶』があって『披露パーティ』をすることになったのかと、ルチアは納得した。ルチアのサイズに合ったパーティ用のドレスも用意されていたわけだ。
というか、両親からのサプライズパーティーということか。
しばらく帰省しなかったルチアへの意趣返しも兼ねたどっきり企画……あの父なら考えそうである。
「昨夜、話があるって言ってたの、もしかしてこのことだったの?」
グスタフはまたしても首肯いた。
「結局、昨夜は殿下に呼ばれ遅くまで話し込んだせいで時間が取れなくなった。すまなかった。それに……ルチアの『二週間の謹慎』も、そういう名目だが実質『休暇』だ」
「え? 休暇、なの?」
それにはびっくりした。
だが、だからこそ侍女頭さまは『ベネディクト王子殿下から特別な措置』と仰ったのかと、合点がいった。
「あぁ。妃殿下からも、少しルチアを休ませるよう申しつかっている。俺も一緒に休みを取らせて貰っている」
「グスタフも、お休み貰ったの?」
「そのために、ちょっと仕事を詰めた。最近は顔も合わせられなくて辛かった……」
グスタフはルチアの両手を取ると、自分の額に押し頂いた。
しばらくそのまま彫像のように固まっている。
「グスタフ?」
「言わないようにしようと思ってたけど……やっぱり可愛い」
「え」
ルチアは幼いころから何度も『可愛い』と言われてきた。
けれどそんな自分の容姿が好きではなかった。
付き合い始めたころのグスタフに、一度だけそんな愚痴を溢したことがあったが、もしかして彼はそれを覚えていたのだろうか。
口下手なグスタフがルチアの容姿について言及したことがないのはそのせいなのだろうか。
いや。だからこそなにも言えなくなり、口下手により拍車がかかっていたのかもしれない。
彼は『やっぱり可愛い』と言った。
今まで言わないようにしていたということは、言いたかったのを我慢していたということ。
グスタフが顔を上げた。涙で潤んだ瞳でルチアを見つめる彼は、頬を染め感極まった風情でしみじみとことばを溢す。
「キレイだ」
「――!」
そりゃあ、今はきちんと着飾っているから褒められても当たりまえ、というか褒められないといけない場面のはずなのだが、ルチアには刺激が強い。
だって『可愛い』ならともかく『きれい』だなんて、それはルチアのためのことばではないはずだから。
「世界一キレイだ」
「~~~~っ」
その単語は言われ慣れていない。それにまさかグスタフが言うなんて。
口下手の彼がいうことばはシンプル過ぎて、だからこそルチアの胸に深く沈み込む。
「世界一綺麗な俺の嫁だ」
「!!!!!」
どういうわけか、グスタフのルチアに対する賛辞が止まらない。ルチアはいちいち反応して、その度に心臓が止まりそうなくらい驚いているというのに!
「俺の自慢の嫁だ。ルチアはいつも潔くてカッコいいと俺は思っている」
「あああqあwせdrftgyふじこlp;@:」
そういえば、今日はグスタフの口から何度も『カッコいい』という単語で褒め称えられているがどういうわけだ。カッコいい人からカッコいいと言われるなんて、なんという辱めか!
もうその辺で止めて欲しいと訴えたかったが、ことばにならないうわ言のみ口から零れる。動揺し過ぎだ。おちつけじぶん。
「昨日、ウナグロッサの狸王女にきっぱり言ってくれて嬉しかった。あぁ、俺の嫁はなんて凛々しくカッコいいんだろうって感激してた。
『わたしは夫を深く愛しております。彼以外の人間なら結婚なんてしていません。たとえ生まれ変わっても彼と添い遂げたいと思っております』
一言一句違えず覚えている。忘れない。あんなに嬉しいと思ったことはないし、俺も同意見だ」
もう勘弁して欲しい。今日は自分に対する美辞麗句を聞き過ぎて、脳に負荷がかかり過ぎている。
顔は熱いし、なんだか妙な汗が背中といわず顔といわず、なんなら手の平にもかいているし、ことばは上手く出てこないし、もうどうしたらいいのか分からない。
「ルチア。ルチア、愛している。ルチアだけだ。ルチアでなければ結婚しようだなんて思わなかった」
「グスタフ……!」
熱い想いの詰まった喉をなんとか抑え、やっとこさ夫の名前をいうことに成功したが。
「あー、あー。おふたりさん? そろそろ時間なの。いいかなー?」
そうだ。母が同じ部屋にいた。
グスタフとルチアが部屋のドア付近でふたりの世界を展開させたせいで、母は脱出する隙を逃したのだ。
うっかりふたりだけの世界に没入してしまい、母に居た堪れない空気を味わわせたことを、ルチアは深く反省した。
4
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる