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21.もしかしてプロポーズ

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 グスタフが父に語った話の中で、結婚披露で着飾ったルチアを見れず後悔したという旨のことばがあった。あれが嘘でないのなら、その後悔が払拭されたということだろうか。
 グスタフはドレス姿のルチアをどう思うのだろう。

「どうかな。似合ってる?」

「結婚してくれ!」

 この人はなにを血迷ったのかとルチアは可笑しく思う。

「うん、もうしてる」

「あ、あぁ」

 グスタフがその場で片膝立てて跪いた。そうなるとふたりの顔の距離が近づき、さすがにルチアが見下ろす高さになった。

「グスタフ?」

「ルチア。ドレス似合う」

 目を細めうっとりと呟くグスタフに、なんだか可笑しいような調子が狂うような不思議な心地である。

「ありがと……結婚披露パーティー、これからしてくれるんだって、おかあさまから聞いたけど……提案したのはグスタフ?」

 グスタフは静かに首肯うなずいた。

「夫人に……お義母上ははうえに相談した。きちんと挨拶に来れるのなら考えましょうと言われた」

 なるほど。
 それで今日の父への『挨拶』があって『披露パーティ』をすることになったのかと、ルチアは納得した。ルチアのサイズに合ったパーティ用のドレスも用意されていたわけだ。
 というか、両親からのサプライズパーティーということか。
 しばらく帰省しなかったルチアへの意趣返しも兼ねたどっきり企画……あの父なら考えそうである。

「昨夜、話があるって言ってたの、もしかしてこのことだったの?」

 グスタフはまたしても首肯うなずいた。

「結局、昨夜は殿下に呼ばれ遅くまで話し込んだせいで時間が取れなくなった。すまなかった。それに……ルチアの『二週間の謹慎』も、そういう名目だが実質『休暇』だ」

「え? 休暇、なの?」

 それにはびっくりした。
 だが、だからこそ侍女頭さまは『ベネディクト王子殿下から』と仰ったのかと、合点がいった。

「あぁ。妃殿下からも、少しルチアを休ませるよう申しつかっている。俺も一緒に休みを取らせて貰っている」

「グスタフも、お休み貰ったの?」

「そのために、ちょっと仕事を詰めた。最近は顔も合わせられなくて辛かった……」

 グスタフはルチアの両手を取ると、自分の額に押し頂いた。
 しばらくそのまま彫像のように固まっている。

「グスタフ?」

「言わないようにしようと思ってたけど……やっぱり可愛い」

「え」

 ルチアは幼いころから何度も『可愛い』と言われてきた。
 けれどそんな自分の容姿が好きではなかった。
 付き合い始めたころのグスタフに、一度だけそんな愚痴を溢したことがあったが、もしかして彼はそれを覚えていたのだろうか。
 口下手なグスタフがルチアの容姿について言及したことがないのはそのせいなのだろうか。
 いや。だからこそなにも言えなくなり、口下手により拍車がかかっていたのかもしれない。

 彼は『やっぱり可愛い』と言った。
 今まで言わないようにしていたということは、言いたかったのを我慢していたということ。

 グスタフが顔を上げた。涙で潤んだ瞳でルチアを見つめる彼は、頬を染め感極まった風情でしみじみとことばを溢す。

「キレイだ」

「――!」

 そりゃあ、今はきちんと着飾っているから褒められても当たりまえ、というか褒められないといけない場面のはずなのだが、ルチアには刺激が強い。
 だって『可愛い』ならともかく『きれい』だなんて、それはルチアのためのことばではないはずだから。

「世界一キレイだ」

「~~~~っ」

 その単語は言われ慣れていない。それにまさかグスタフが言うなんて。
 口下手の彼がいうことばはシンプル過ぎて、だからこそルチアの胸に深く沈み込む。

「世界一綺麗な俺の嫁だ」

「!!!!!」

 どういうわけか、グスタフのルチアに対する賛辞が止まらない。ルチアはいちいち反応して、その度に心臓が止まりそうなくらい驚いているというのに!

「俺の自慢の嫁だ。ルチアはいつも潔くてカッコいいと俺は思っている」

「あああqあwせdrftgyふじこlp;@:」

 そういえば、今日はグスタフの口から何度も『カッコいい』という単語で褒め称えられているがどういうわけだ。カッコいい人からカッコいいと言われるなんて、なんという辱めか!
 もうその辺で止めて欲しいと訴えたかったが、ことばにならないうわ言のみ口から零れる。動揺し過ぎだ。おちつけじぶん。

「昨日、ウナグロッサの狸王女にきっぱり言ってくれて嬉しかった。あぁ、俺の嫁はなんて凛々しくカッコいいんだろうって感激してた。
『わたしは夫を深く愛しております。彼以外の人間なら結婚なんてしていません。たとえ生まれ変わっても彼と添い遂げたいと思っております』
 一言一句たがえず覚えている。忘れない。あんなに嬉しいと思ったことはないし、俺も同意見だ」

 もう勘弁して欲しい。今日は自分に対する美辞麗句を聞き過ぎて、脳に負荷がかかり過ぎている。
 顔は熱いし、なんだか妙な汗が背中といわず顔といわず、なんなら手の平にもかいているし、ことばは上手く出てこないし、もうどうしたらいいのか分からない。

「ルチア。ルチア、愛している。ルチアだけだ。ルチアでなければ結婚しようだなんて思わなかった」

「グスタフ……!」

 熱い想いの詰まった喉をなんとか抑え、やっとこさ夫の名前をいうことに成功したが。

「あー、あー。おふたりさん? そろそろ時間なの。いいかなー?」

 そうだ。母が同じ部屋にいた。
 グスタフとルチアが部屋のドア付近でふたりの世界を展開させたせいで、母は脱出する隙を逃したのだ。

 うっかりふたりだけの世界に没入してしまい、母に居た堪れない空気を味わわせたことを、ルチアは深く反省した。


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