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4.ルチアの悩み①
しおりを挟む(だれも思わないよねぇ。結婚二年も経ってる夫婦が未だに同衾なし……だなんてさ)
いや、同じベッドで寝てはいるのだが。
『白い結婚』状態ではいやはやなんとも。
(お互い忙しくて、ベッドへ誘っても“明日(の業務)があるから”って眠っちゃうんだよねぇ……)
そんな生活も気がつけば二年。
(わたしに魅力がない、からかなぁ……)
自分の胸に手を当てる。なくはない。あるにはある。けれどすべての男性を魅了し圧倒するだろうサイズではない。
鏡を見れば、泣きそうな顔をした女がいた。
ピンクブロンドの髪と、晴れ渡った空色の青い瞳。自分で見ても『可愛い』に分類されてしまう容貌。全体的に小柄で細い手足。
どんなにトレーニングを積んでも筋肉がつかない薄く頼りない身体。女性としての魅力も足りない。つまり、どこまでも自分は『こどもっぽい』のだ。
(こんな風にこどもっぽいから、グスタフは手を出さないのかなぁ……)
ふとリラジェンマ王太子妃殿下を思い出した。
二ヶ月前に王太子が自ら選んで連れてきた女性だ。
あの方も小柄で可愛いと言って差し支えない容貌であった。
けれど、彼女はさすがに隣国の王女殿下だ。清楚かつ可憐でありながら、なんともいえない王族オーラがあった。
(可愛いのにどこかキリっと厳かで……プラチナブロンドのお髪がキラキラして冬の妖精みたいなお方だったなぁ。そのくせ微笑まれると春の陽だまりみたいで……王妃殿下と王太子殿下が競うように貢ぎ物を贈ってるって話だし……王太子さまも溺愛してるって噂だし……可愛いけど子どもっぽくない。ちゃんと大人の女性だ……)
リラジェンマ王太子妃殿下がこの第二王子宮に訪問した記憶も新しい。
ルチアが敬愛してやまないセレーネ妃はもとより、夫のベネディクト王子殿下や、この宮の真の主といっていい一歳のルイ王孫殿下すらリラジェンマ殿下をすぐに気に入ってしまった。
一目見て思うところがあったらしいルイ殿下は、乳母の抱っこから自分の意思で地面に降り立ち(実はこれ、珍しい)、リラジェンマ妃殿下の前までよちよちと歩いて彼女の前に立ち塞がり両手を上げて「んっ!(抱っこ!)」と強請ってらした。
幼児に立ち塞がれた妃殿下は、暫く彫像のように固まってルイ殿下と見つめ合っていたが(傍で見ていたルチアはハラハラした)、あの翠の瞳を柔らかく光らせ微笑んだ。
『わたくしがお抱きしてもよろしいのですか?』
穏やかなお声でルイ殿下に話しかけたあと(ルイさまはその間ずっと両手を上げて抱っこをせがんでいらっしゃった)、やさしくそっと抱き上げてくださった。
ふたりの可愛らしいやり取りは、セレーネ妃はもとより同席していたベネディクト殿下も目を細めて見守っていた。
(ふだんは人見知りの激しいルイさまが、リラジェンマさまには自分から近づいて抱っこをせがんでいらっしゃったものねぇ……そのあとずっとぺったりくっついてたし)
あれ以来、リラジェンマ妃殿下はルイ殿下のお気に入りとなった。
『今日はリラさまがおみえになりますよ』という一言を一歳の幼児であるルイ殿下へ告げると、とたんにご機嫌になる。すこぶる良くなる。お付きの者としては仕事がしやすくなった。
第二王子宮に勤める人間はすべて、リラジェンマ王太子妃殿下の訪問を待ちわびるほどになったのだ。
そのルイ殿下がセレーネ妃の胎内にいたころ。
学園生だった当時のルチアは生まれてくるセレーネ妃の子どもの乳母になりたかった。だが、当然と言えば当然の話であるが『乳母』になるには本人にも赤子がいて授乳可能でなければならない。セレーネ妃の代わりに乳を与える大事なお役目を担うのだから。
(あのとき“妊娠して乳母になりたいの”って話をグスタフにしたけど、“そうか”っていう返事だけだったなぁ……)
あのころのルチアは学生寮に住んでいた。
グスタフとデートをしても、彼は夜の早い時間にはちゃんと寮へ送り届けてくれた。外泊なんてこと、一度もなかった。
ちょっと味気ないな……なんて思っていた。
そんな状況をなんとか打破したくて一生懸命考えた一手。
ルチアとしては精一杯考えて迫ったつもりだったのだ。
これでグスタフがルチアとの関係を深いものにしてくれれば、一石二鳥の作戦になると思った。けれど、グスタフからはたった一言の軽い返答があっただけ。
とはいえ『こどもが欲しい』とねだる女子に対して、口下手なグスタフが『俺が協力しようか?』なんて軽口を叩くわけないのだ。
やはりあれはルチアのアプローチを意図的にスルー(聞かなかったことに)したのか。
それ以前に、アプローチだと気付かなかったという可能性もある。
ルチアは思う。
恋人同士で濃密な夜を過ごし朝にはにかみながら可愛らしいキスをする……なんて御伽噺に違いない。あるいは都市伝説。
単細胞生物ではないルチアにとって、妊娠するために殿方の協力は絶対必要不可欠だ。
けれど『夫』とは清い仲。妊娠なんて夢のまた夢だ。
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