異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

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58.ベリンダの末路

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 驚いたことに、だれもかれも(昨夜彼女の説教をした特使も)ベリンダに笑顔も見せず、腫れものを扱うように遠巻きにした。ベリンダは王女だというのに!
 まるで汚い物がそこにあって触りたくないといった雰囲気。
 嫌悪と怪訝けげんな表情を作りベリンダを睥睨する彼らの目が怖かった。

(なんなの? これじゃあ、グランデヌエベのキツネどもと同じ反応じゃない! みんなどうしちゃったの?)

 不安に駆られながら帰城したのだが、こんどは城を前にして馬車が止まってしまった。馬がどうしてもいうことを聞かず進まない。
 早く自分の宮に戻りゆっくり疲れを癒したかったベリンダは、ぷりぷりと怒りながら馬車を下り自分の足で歩いて城に入ろうとした。
 だが、ある場所から見えない壁に阻まれ進めなくなった。

「え? なに? どういうこと?」

 手を伸ばし、やっとなにかがあると分かるのだが、それは目に見えない。
 だが目に見えないそれはベリンダの入城を阻んでいた。彼女と同行していた特使や護衛騎士は不思議な者を見る目でベリンダを

 彼らはなんの問題も無く城内に入れたというのに!
 どうして自分だけ、こんな目に合わねばならないのか。

「なんなの⁈ これ! わたしを誰だと思ってるの⁈ ベリンダ・ウーナが帰ってきたというのに、これはなに?」

 ベリンダが叫んだ瞬間。
 空は快晴だというのに、爆音とともに落雷があった。
 ベリンダの真上に落ちたそれによって、彼女は全身火に包まれた。

 驚いた城内の者が彼女を医局に運ぼうとしたが、見えないなにかに阻まれて進めない。なにをどうやってもベリンダを城内に入れることができなかった。
 一刻を争うと判断されたため、彼女は城外の町医者の元へ運ばれた。幸い一命はとりとめたが、落雷のせいで全身ひどく焼け焦げ、髪は無くなり、自慢の美貌は見る影もなくなった。その上、声帯を痛めたらしくあの美声も永遠に失われた。


 ほぼ同時刻。
 城内に勤める者が城の内宮にいたはずの国王の愛妾、レベッカ・アマディ夫人の遺体を発見した。
 彼女の遺体の特徴もベリンダ王女と同じ、雷の直撃を受けたようなそれで、だれもが首を傾げた。
 アマディ夫人は屋内にいたにも関わらず、落雷にあったような有り様であった。
 部屋の中に一人でいた彼女の本当の死因はだれにも解らなかった。



 ◇ 時間は進み、グランデヌエベ ◇



 先日の夜、リラジェンマが第一神殿で祭祀を行ったことは、すぐにビクトール国王陛下の耳に届いたようでウィルフレードはこの日、陛下から特大の雷を落とされた。

 いつもいつも事後承諾とはなにごとか、と。

 怒られているはずのウィルフレードは、涼しい顔をして父親のお小言が終わるのを待つ。

 一頻ひとしきりウィルフレードへの説教を終えると、国王陛下はリラジェンマに向き合い彼女の身を案じた。

 初めての祭祀は怖くなかったか、身体中の気力を根こそぎ吸い取られたのではないか、きちんとウィルフレードに説明を受けていたのか、ウナグロッサへ向けての祭祀なんて無茶はほどほどにしなさい、などなど。

 実父とまともに会話を交わしたことのなかったリラジェンマには、とても嬉しいお小言であった。

 せめて国王である自分が同席していれば、リラジェンマの負担を軽減させただろうにと言いながら、彼女の手を握り労わる――いや、労わろうとした瞬間、その手をウィルフレードに叩き落とされる。
 睨み合う黄水晶シトリンの瞳が二対。

(この親子、なにをしているのかしら? ……気力を吸い取られるどころか、身体中に激痛が走ったし呼吸困難になるし寒くて震えたし……なんて言ったらウィルが余計に怒られそうね)

 リラジェンマはそんな詳細を語る必要はないと判断し、笑顔で『、なんともありませんから』と本当のことを言った。

 、なんともない。間違いない。むしろ絶好調である。

 ウィルフレードの『僕がずっと君に触れていたからね!』という言葉が正しかったのかどうか真偽のほどは分からないが、あの後わりとすぐに回復した。一晩寝込む、なんて事態にもなっていない。
 それについてはっきりとした説明をしてくれないウィルフレードであるが、要するにリラジェンマとウィルフレードの接触によりお互いの力を補充し合えるようなのだ。

 ウィルフレードが昏倒したときは、まる一日、ふたりは手を繋いでいた。それと睡眠で回復した。

 今回は、あの時よりリラジェンマの能力値が上がっていたことと、祭祀後すぐにウィルフレードが全身を使って(本人談)彼女に力の補填をしていたこと、そしてなによりも始祖霊となった母の力の補填があったこと。
 それらのお陰でリラジェンマは驚異的な速さで回復したのだろうと自己分析した。

 だが。

、か。……なるほど? ウィルフレード。お前、自分の妃に無理を強いる大莫迦野郎か!」

 リラジェンマの返答を聞いた国王は片方の口の端をあげる、ある意味親子そっくりの笑い方をした。
 リラジェンマは詳細を語らなかったのに、その野生の勘ですべてを理解してしまったらしい国王陛下のお説教はまだまだ続くかと思われたとき。



 隣国ウナグロッサから来た急使がリラジェンマへの面会を希望した。
 国王代理の訃報を携えて。

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