異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

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41.「……メンボクナイ……」……反省なさいませ

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 決まりごとやルール、マナーを強制されること。自分の意思を遮られること。ベリンダはそれらを酷く嫌がっていた。

「――なるほど。おい。作戦変更『キツネ狩り』だ。『巣穴は舞踏会会場』。捜索に当たっている人間に通達」

 カバジェ団長は側に控えた従者にそう告げた。

(庭園捜索の作戦名が『キツネ狩り』、ですか)

 もともと『キツネ』はグランデヌエベ国民を揶揄するときに使われる単語であると思うと、なかなか感慨深い。もっとも今回捜索対象なのはウナグロッサの王女だからキツネといったら語弊があるのでは? とリラジェンマは考えた。

「妃殿下。いかがなさいましたか?」

 じっとカバジェ団長を見つめていたら、疑問に思ったらしい。彼に顔を覗きこまれたリラジェンマは肩を竦めて応えた。

「いえ別に。ただ、作戦名は『タヌキ狩り』ではと、思っただけよ」

『タヌキ』はウナグロッサ国民を揶揄するときに使われる単語である。
 彼女の応えにカバジェ団長は相好を崩した。真面目だと思っていた王太子妃の返しが気に入ったらしい。


(“巣穴”は捜索対象者が目指している地点、ということかしら。ここの騎士団は詩的センスがあるわ……というか、以前にも庭園捜索をした過去がある、と考えるのが妥当かしら)

 ウィルフレード王太子が少年時代、弟を引き連れて進入禁止区域にまで入り込んで捜索隊が出された、なんて過去があったのかもしれない。

(公式文書にイタズラ書きするようなやんちゃ坊主だったようだし、ありえるわね。あとで王妃殿下おかあさまにお聞きしてみましょう)



 ◇



 カバジェ団長の元へ、次々と情報が集まり始めた。
 ベリンダ王女の随行人の騎士(わずか3名だと聞いてリラジェンマは驚いた)は、だれもが従者控室で大人しくしていたらしい。王女不在を聞き、慌てふためいていたとのこと。捜索に加わりたいという申し出をリラジェンマの名において退けた。

 ウナグロッサ大使は本日の舞踏会に夫人とともに参加していたが、すでに大使館に帰館したあとだった。こちらもリラジェンマの名を出し、大使館からの外出を禁じた。

(どちらも、わたくしの奪還とやらのために動き出したと思われたら面倒だもの。下手に動いて妙な嫌疑を掛けられたくないわ)

 そしてバラデスを伴ったウィルフレードが、近衛騎士団に合流した。

「あら。ウィルフレード殿下。いままでどちらに?」

 あなたがいないせいで指揮系統が混乱しかけましたよ、という思いを込めてウィルフレードを睨むと、

「ごめん。迎賓館の隠し部屋から目標ターゲットを観察しようとしてた」

 と、ウィルフレードはあっさり頭を下げた。彼の背後でバスコ・バラデスも頭を下げている。

 聞けば、ベリンダに宛がわれた部屋は隠し部屋からこっそり覗ける場所だったようだ。
 ウィルフレードとバラデスはその部屋から対象人物を監視しようとしたが、既にベリンダ本人はこっそりと部屋を出ていたようで、すっかり入れ違いになったらしい。だが暫くそれに気がつかず(さすがに洗面所を使っていたら覗くわけにはいかないと)無人の部屋を横目に待ちぼうけを喰らわされていたらしい。

「わたくし、先にあの子と会いたいと申し上げていましたよね?」

「……うん」

 腰に手を当て、淡々と追求するリラジェンマの前でウィルフレードは項垂れる。
 この光景を目にした誰もが叱られている子どものようだと、考えた。

「わたくしを伴っていれば、あの子の行動など幾分早く推測できたでしょうね。ウィルがぼんやり待ちぼうけを喰らわされた無駄な時間が減りましてよ?」

「……メンボクナイ……」

 声を荒げるでもない淡々としたリラジェンマの問いかけは、ウィルフレードの肩をますます落とさせる。
 そんなふたりの様子を見かねたのか、バラデスが口を挟んだ。

「庭園捜索の陣頭指揮を王太子妃殿下がなさったと伺いましたよ!」

 項垂れる主を救う目的もあるだろうそれは、妙に明るい口調で。

「いいえ、わたくしは」

「左様でございます。妃殿下のご慧眼、感服仕りました」

『提案しただけ』と続けたかった言葉は、カバジェ団長のはっきりした声にかき消された。
 彼が続けてリラジェンマを賞賛しそうだったので、手を上げてそれを遮る。リラジェンマはベリンダ本人の行動パターンをこの国のだれよりも知っていたに過ぎない。手柄などではないのだ。
 お陰で(?)ウィルフレードの独断専行を追求する手が緩んでしまったのは否めない。

「さすがはリラジェンマ妃殿下です!」

「バラデス。わたくし……足が、痛いわ」

「え゛」

 揉み手しそうなバラデスのお追従を止めさせようと発した言葉は、彼を黙らせることに成功した。
 が、逆にウィルフレードを発奮させた。

「リラ! なぜ立っている! 誰かすぐに椅子をっ!」

 そして、あっという間に座り心地のいい椅子が近衛騎士団長室に持ち込まれ、そこに座ったウィルフレードの膝の上に座らされるリラジェンマがいた。

(どうしてこうなったのかしら)

 妙に機嫌のいいウィルフレードと、温かい眼差しで王太子夫妻を見守る騎士たち。そして現状に内心おどおどするがそれを外面に見せないリラジェンマ。
 彼らのもとへ、ウナグロッサ王国第二王女発見の報告が入ったのは数分後である。




-----------------------------
(こぼれ話)

作戦名「キツネ狩り」を庭園捜索する際に用いたのは(この時点から)14年まえ。

主に捜索されていたのは当時7歳のベネディクト第二王子殿下。

庭園の生垣の下をほふく前進で潜む7才の子どもの捜索はなかなか大変だった模様。『四苦八苦王子(省略形)』に、当時の様子がちょっとだけ記されています。
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