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37.「君の異母妹が、じきに来る」……‼
しおりを挟む王家主催の舞踏会は定刻どおり開催された。
リラジェンマはウィルフレードに手をひかれ、ベネディクト王子夫妻のあとに続いて会場入りした。最後尾に入室するのは国王夫妻である。
その途中、ウィルフレードは進行方向を見つめながらリラジェンマに話しかけた。
「祭祀の件。リラの足が完全に回復したら第一神殿に行って試してみよう」
「え」
少し高い場所にある中二階から会場に向け階段を下りている最中に、そんな重要案件を囁かれたリラジェンマは立ち止まりそうになり慌てた。
「精霊たちの力を借りられるかもしれない」
「それは……はい」
このような大事な話はお互いの顔を見ながらしたいのだが。
(相変わらずこの金キツネは重要な話を突然ぶち込んでくるわねっ)
リラジェンマにとって、会場にいるのは知らない人間ばかりなのだ。
そのだれもがリラジェンマの一挙手一投足に注目しているのだ。
ただでさえ、負傷した足に負担をかけない為の慣れない型の靴なのだ。
それでも負傷を悟らせないよう笑顔を絶やさず優雅に歩いている最中なのだ。
それも階段をっ!
(足元が見える殿方にはわからないかもしれませんがね! スカートで足元が見えないのよ? そこを優雅に歩くのよ? しかも履きなれない靴で! 失敗できないときに動揺させないでよ! この金キツネ! 鬼畜!)
罵詈雑言に溢れる内心を許せと思いつつ、会場を横切る。ふと目線を流せばセレーネ妃とのお茶会で知り合った伯爵夫人がいて、リラジェンマと目が合うと優雅なカーテシーを披露してくれた。
反対側に目を向ければ、やはり見知った貴婦人の顔がある。
(まるっきり知らない人ばかり、というわけでもなかったわね)
少しだけ張り詰めた気持ちを落ち着けることができた。
会場の隅にある王族専用の一段高い場所への段差に足をかけたとき、ウィルフレードはまたしても爆弾発言をしてリラジェンマを驚かせた。
「君の異母妹が、じきに来る」
「――!」
今度こそ足を止めてしまったリラジェンマは、真意を確かめようとウィルフレードの顔を見あげた。
そこにいたのは『王太子ウィルフレード』
この仮面を被った彼の真意は非常に解りづらい。
「今日の深夜には着くと思う。僕への面会を求めているらしい」
輝く金髪に夢見るような空色の瞳をもつ異母妹、ベリンダ・ウーナ。母親譲りの美貌と肢体。男を惹きつける仕草。
一般的に得られる外見からの情報は、愛らしい美少女。
リラジェンマにしか視えない、おぞましいバケモノの少女。
アレがこの国に来るという。
王太子に面会を求めているという。
彼女の目的は?
なにをするつもりで来るのか?
物思いに耽るリラジェンマをよそに、国王陛下が舞踏会開催の宣言をするとともに、リラジェンマの名を呼んだ。彼女は反射的にその場で軽いカーテシーを披露した。
「皆も聞き及んでいよう。この者、王太子が自ら足を運び、わざわざ隣国から招いた王女だ。王太子と心を通わせ、既に王太子妃として佑霊と精霊たちからも認められている。既に余の義娘ぞ。見知りおけ」
国王陛下のその言葉に、いっそお見事! と言いたくなるほど一斉に会場中が低頭した。
解る人には解ったかもしれない。
『隣国から』来た『王女』。『プラチナブロンドの髪と翠の瞳』
ウナグロッサの王太女であると。
そしてあからさまにリラジェンマの色彩を纏うヌエベ王家の面々。
「ここまでしたんだ。義姉上に盾突こうなんて頭の悪い輩はいないだろうね」
ベネディクト王子がニヤニヤと笑いながら隣にいる愛妻にそう囁く。
「わたくしの意を正しく理解した若い夫人たちは、それぞれの夫によく言い含めてくれていると推測しますわ」
セレーネ妃も囁き返す。
「さすがセレ、抜かりないね。問題は古狐どもか」
ベネディクト王子がさり気なく愛妻を褒め称えると、王妃殿下が横から息子に語りかけた。
「うふふ。大丈夫よベニィ。わたくしのこの目の色を忘れる者はいませんもの」
「いたら排除する」
「あら。陛下ったら。物騒ですこと」
(あぁ、ベニィってベネディクト殿下の愛称だったのね)
仲良し王家の会話を表面上は笑顔で聞きつつ、リラジェンマは先ほどウィルフレードによって齎された情報について考え込んでいた。
ベリンダ・ウーナ。
なんのためにわざわざグランデヌエベに来るのだろうか。
父である国王代理の許可のもと、正式に訪問しているのだろうか。あの父が大切にするベリンダを国外に出すとはとても思えないのだが。
あの少女は、いつもいつもリラジェンマの周りをうろついては彼女の持ち物を強奪していった。
今回も、リラジェンマの持ち物を狙っているのだろうか。
もうベリンダへ下げ渡す物などないというのに。
(まさか、わたくしが新たに手に入れた地位、グランデヌエベの王太子妃という立場を強請りに来た?)
王族としての義務を一切遂行していなかった第二王女。
第一王女であるリラジェンマがいなくなり、その責務を任じられたとしてもすぐにできるものではないだろう。
もしかしたら、それに嫌気が差して逃げ出したのかもしれない。
そして。
そんなことはないと思うが、もしかしたら。
(ウィルも、あの子に会ったら、好きになってしまう、かも……)
そこまで考えたとき、急に息苦しくなった。
そんなことはない。
この二か月、彼はリラジェンマに甘く優しく接してくれた。頬にキスを落とし、昨日は抱きしめてくれた。可愛い、大好きと言ってくれた。
(でも……あの子が泣いて縋ったら、きっと男の人ならだれでも手を貸したくなる、はず……)
ウーナ王家を守護する魔法陣のないこの場所に、リラジェンマ個人を護るものはなにもない。
専用の親衛隊もいない。
もしかしたら、……ウィルフレードは心変わりするかもしれない。
あの時。
二か月まえ、婚約者だったあの男がリラジェンマへ懺悔とともに別れを告白したときのように。
(だって……最初にウィルがわたくしを選んだ理由は佑霊の助言があったから。ウィル自身の選択では、ないのだもの……)
しかも、ヌエベ王家の人間は直感で物事を決める習性がある。
ひとめ見て『自分の運命の相手は彼女だ!』と決断してしまう可能性だってないとは言えない。
胸の奥が酷く痛んだ。
じくじくと膿んだ踵の傷のように、熱を孕んだ嫌な痛みだ。
怪我の痛みに悩まされたことのなかったリラジェンマにとって、これは初めての感情であった。
「リラ。踊ろう」
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