異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

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20.ヌエベ家親子の会話

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 いままでの話を総合すると。
 ウィルフレードは精霊たちが、特に佑霊が騒ぐからウナグロッサへ赴いたらしい。嫁がいるから迎えに行けという佑霊の助言に従いリラジェンマを迎えに行った。
 迎えに行ったウナグロッサ国内で『リラジェンマを助けてくれ』と新たに訴える佑霊(この場合はウナグロッサ流に始祖霊といった方が正確かもしれない)の言葉に従い、即急に彼女をグランデヌエベ王国へ連れ帰ったと。
 そういえば昼間ウィルフレードは『うちのが騒がしすぎて、つい介入しちゃった』などと言っていた。あのときの『うちの』とは『うちの精霊(或いは佑霊)』という意味だったのだろう。
 そして『リラは早晩この世のモノでは無くなる』と言ったのは、その佑霊なり精霊なりから何か不穏な動きがあると聞いたからだろう。
 精霊はどこにでもいるが、どこにいても人の目には視えない。ウィルフレードにとって実に有能な間諜役なのだと推測できる。

(お父様……もしかしたらわたくしを亡き者にしようと……)

 やはりあの父はすでに自分に対する愛情など皆無なのだと再認識した。
 落胆する気持ちがないと言ったら嘘になる。だが今のリラジェンマにはもう関わりのない人間だ。

(とりあえず、戦争になることはなさそうね)

 すべては王太子ウィルフレードの独断で、グランデヌエベ王国の最高責任者である国王陛下にはウナグロッサ王国への侵略意思はない。
 最悪の事態になることはないと胸を撫で下ろしたリラジェンマだったが。

「というわけで、リラジェンマを僕のお嫁さんにするからね。父上も母上も喜んでくれるだろ? 勿論、アレに名前も書いちゃったし」

(王太子が独断で動いて、事後承諾? 王太子の結婚相手をそんな軽々しく決めるの?)

 目の前で語られる親子の会話に目を白黒させるリラジェンマである。なにせ、口を挟む暇もないのだ。しかも国王宣誓書に署名した事実をさりげなく投下している。
 国王は息子のゴリ押し発言にやれやれといった顔で応える。

「なるほど、お前は狡猾だな。しかも佑霊の啓示。良かろう。それで? 結婚式はいつにするんだ?」

(あっさり承諾したわね国王陛下! 悩んでいる風もなかったわよ? それだけ佑霊の助言に重きを置いているの? グランデヌエベ王国って大丈夫なの……?)

 王族の結婚とは、国の一大事でなかろうか。
 ある意味、国の今後を左右する案件である。ウナグロッサ国内ならば、上層部である元老院で議論されてしかるべきだ。
 だというのに、このグランデヌエベでは。

「うーん。出来るだけ早くしたいね」

 王太子は軽く答える。

「女にはお支度を整える時間が必要ですよ。ドレスやらなにやらで一年は欲しかったけれど、仕方ありません。それでも最上級の物を取り揃えたいわ。……6ヶ月だわね」

 口を挟んだのは王妃殿下である。どうやらリラジェンマの支度を整える気満々のようだ。

(王妃殿下の発言がまともだわ。まとも過ぎて泣けそうだわ。でも反対はしない姿勢がもう、なんと言っていいのかわからないわ)

「王太子宮の中に姫の居住区域を設えねばな。いまは客室なのだろう? 不便ではないか」

 とてもいいことを思いついた! という笑顔で国王陛下が提案する。

(陛下もノリノリね!)

 どうやら王太子の要求を国王と王妃は納得し認めたようで。すっかり既定路線という体で話が進んでいく。
 自分のことであるのにも関わらず、リラジェンマは傍観者の立場になってしまった。
 と思ったらウィルフレードがぐりんと音がするような勢いでリラジェンマに振り返る。彼の黄水晶シトリンの瞳がきらきらとうつくしく煌めいて、頬が上気して、興奮しているさまが一目でわかった。
 なぜかリラジェンマの胸の鼓動も弾んだ。
 ウィルフレードはそのまま勢い込んで言った。

「というわけで、リラ。君には僕の子どもを生むというだいじな使命があるからね。出来ればベネディクトによく似た可愛い女の子が欲しいなぁ」

(はあ? いま、なんと?)

 王族に生まれた以上、血統を残すのは重要な使命だ。
 これはウナグロッサやグランデヌエベに限らずおよそすべての王国でも変わらないだろう。リラジェンマも承知している。
 問題はそこではない。

(ベネディクトって誰? 有名人なのかしら。男性の名前のようだけど、ウィルは女の子が欲しいって言わなかった?)

 ウィルフレードの言葉に疑問を持ち、首を傾げるリラジェンマを見て王妃が言う。

「ウィルフレード。今の言い方は感心しません。子どもなど精霊のお導きがないと生めないのです。さらに男女の産み分けなど意思の力でできるものではありませんよ」

 もっともな意見である。さすが経産婦。きりっとした表情で言い切るさまは、凛としてさすが王妃殿下といったところか。

「生まれてしまえば男でも女でも可愛いだろうし」

 と言ったのは国王陛下。こちらはなんだか上機嫌だ。いまだ生まれぬ孫の幻想でも見ているのだろうか。呑気なことである。
 だがまずそれ以前の話で、リラジェンマはついていけない。

「あの、……ベネディクトとは、どなたでしょう?」

 やっと口を挟むことに成功したリラジェンマが問えば

「僕の弟だよ」「第二王子だ」「わたくしの生んだ次男です」

 三人が一斉に答えた。ウィルフレードから聞いていた結婚して兄に構わなくなったという弟殿下のことかとやっと合点がいったが。

(それで……にそっくりなって……どういうこと?)

 やっぱりいろいろわからない。リラジェンマの脳内は疑問符に埋め尽くされている。

 そんなリラジェンマに気遣ったのか、ウィルフレードがとてもいい笑顔で弟の説明を始めた。

「あいつは、幼少期は病弱だったがその頃から聡明でね。将来は僕の片腕として活躍するんだと書物ばかり読んでいた。健気だと思わないかい? すっごく可愛かったんだよ? 成長とともに丈夫になって次々と新しい政策を打ち立てるし、目の付け所がいい。頼もしい限りだ。自慢の弟だよ。正直、僕よりあいつの方が王に向いていると思うんだけど……」

 そこでちらりと視線を国王に向ける。
 なるほど、この父子の会話で以前から王太子交代の話題が出てるようだ。



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