13 / 15
13.貧乏くじを引いた(エイダ視点②)
しおりを挟む夫人会とやらに出席して分かった。
まえの奥さまが、伯爵夫人に気に入られてた。それもずいぶん可愛がられてた。
一緒のテーブルでお茶しながら、すっごい嫌味のオンパレードだった。
『第三部隊の部隊長の前夫人はできたお人でしたわ。会合には必ず最新のお茶菓子を手土産に訪問してくれましたもの』
あたし、手ぶらで行っちゃった。
『離婚を決めたときも、わたくしにわざわざお手紙を寄越してくれて……本当に義理堅い、心映えの素晴らしい女性だったわ』
手紙……あたしは自分の名前くらいしか、字が書けない。
『前夫人はもともとはあのローズロイズ商会のお嬢さまでね。いつもシーズンはじめには流行りになるお茶の茶葉をわたくしに紹介してくれて……』
そんなの、あたしには分からない。
『前夫人の口添えがあったから、ローズロイズ商会から商品を仕入れるときには割引してくれたものよ。お世話になっているからって。あそこの化粧品、とっても良いものなのよ……その分、お高くてねぇ』
そんなの、あたしのせいじゃない。
『でももうジュディ夫人はいないし……彼女がいてくれたら……』
そんなことで溜息をつかれても……あたしが悪いわけじゃない。
『夫人がいないから、ほら。見てご覧なさい。夫である部隊長は薄汚れてしまったわ。妻の管理が行き届かないと、夫も哀れなものね』
奥さまたちは、直接あたしを罵ったりはしなかった。でもことばの裏側で当てこすりされてたのは……分かった。
笑顔なのに目が冷たかった。
なんか、すごく……怖かった。
知らなかったけど、貴族って言っても偉い貴族と下の貴族がいるんだね。
奥さまたちは偉いほう。デリックさまは下のほう。逆らっちゃダメなやつ。
肩身の狭い思いって、これのことだったんだ。
あの女騎士さまは、親切心であたしに忠告してくれたんだ。行かないほうがいいって。
ジュディ夫人がいなくなったから、デリックさまは薄汚れてしまった。
いつも夫人がデリックさまの制服を手洗いでお洗濯もしてたんだって。メイドさんから聞いた。貴族の奥さんなのに、自分でやってたんだって。やっぱ下の貴族だから、そうするしかなかったのかな。
あたしが洗濯すると複雑な飾りがガタガタになってしまう。どうしてうまくできないんだろう。
まえは通いの家政婦さんや庭師さんも居たらしいんだけど、その人たち、全員ローズロイズ商会から派遣されてた人で、ジュディ夫人がいない今は来てくれないんだって。
庭は荒れるばかり。
家の中も。
あたしはあたしなりに精一杯やってるんだけど……なにが違うの? どうしたらいいのか分からない。
そんなとき、デリックさまが怪我をした。もう隊長さんではなくなった。
毎日早く帰ってくるようになった。
内勤っていうの? 部署が変わったんだって。
デリックさまはなにも言ってくれなかったけど、執事さんから教わった。
役職手当っていうのがなくなって、お給料が下がったことも。
でも変なの。持ってくるお給料は変わらなかった。
毎日早く帰ってきて、お金を使っていないのは分かっている。なのに家に入れる金額が変わらないって。
つまり。
今までどんだけピンはねしてたの?!
思い返せば、あたしとデートしてたとき、全部彼の支払いだった。あれって自分の給料を使っていたのよね。生活費まで、全部。
なんて男なの!
赤ん坊の泣き声がうるさいなんて文句、あたしに言わないで!
きみは変わった? 変わったのはあんたよ!
ケンカばっかり。
あたしも泣いてばっかり。
こんなことになるって知ってたら、ダンと結婚してたのにって言ったら『これは俺の子じゃないのか』なんてふざけたことを言うから叩いたら、殴り返された。
女に手を上げるなんてサイテー!
その場は執事さんがあたしを庇ってくれたけど、デリックはすっごい怒って『神殿で親子鑑定をする』とか言って出ていった。
親子鑑定って、金貨が何十枚か必要な高価やつじゃなかった?
なにをそんな馬鹿なことをってあたしは怒ったんだけど、デリックは聞いてくれなかった。
どこで用意したのか知らないけど、大金を持って無理やりあたしと赤ん坊を連れて神殿で親子鑑定をお願いした。
結果?
もちろんシロよ。あの子はデリックの子だもん。
あたしはデリックが信じられなくなった。なにが『俺の子なのか……』よ。勝手に騒いで勝手に鑑定して勝手に放心状態になって。
あたしの不貞を疑っておいてごめんの一言すら言わない。自分勝手でひどい男。
それに、親子鑑定のせいで借金したからその返済のためって言って、あたしのドレスやアクセサリーを全部持っていっちゃった! ひどい!
しかも、こんな安物しかないのかって文句まで言って! あたしがお金持ってるわけないのに!
メイドさんが『これはジュディ奥さまが残していったもので、以前旦那さまがご用意したものです』って言ったら黙っちゃったけど。
つまりあれでしょ? まえの奥さまにもろくにお金をかけてなかったってことでしょ?
こんなひどい男だとは思ってなかった。
あたしが好きになったデリックは、もっとシュッとしてて女性にやさしい紳士だった。
それは全部、ジュディ夫人のバックアップがあったからこそ存在したものだった。
あたしは幸せになりたかっただけなのに。
いい男を捕まえて、貴族の奥さまになれると思ったのに。
結婚した男は、夫人がいなくなったとたんパッとしない野暮ったい男になり下がった。
貴族とは名ばかりの貧乏臭い男。
騎士だったくせに女に手をあげる最低な男。
結婚した妻を労らない最悪な男。
あたしは貧乏くじを引いてしまったのだ。
※次話デリック(元夫視点)
228
お気に入りに追加
2,940
あなたにおすすめの小説

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる