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13.貧乏くじを引いた(エイダ視点②)

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 夫人会とやらに出席して分かった。
 まえの奥さまが、伯爵夫人に気に入られてた。それもずいぶん可愛がられてた。
 一緒のテーブルでお茶しながら、すっごい嫌味のオンパレードだった。

『第三部隊の部隊長の前夫人はできたお人でしたわ。会合には必ず最新のお茶菓子を手土産に訪問してくれましたもの』

 あたし、手ぶらで行っちゃった。

『離婚を決めたときも、わたくしにわざわざお手紙を寄越してくれて……本当に義理堅い、心映えの素晴らしい女性ひとだったわ』

 手紙……あたしは自分の名前くらいしか、字が書けない。

『前夫人はもともとはあのローズロイズ商会のお嬢さまでね。いつもシーズンはじめには流行りになるお茶の茶葉をわたくしに紹介してくれて……』

 そんなの、あたしには分からない。

『前夫人の口添えがあったから、ローズロイズ商会から商品を仕入れるときには割引してくれたものよ。お世話になっているからって。あそこの化粧品、とっても良いものなのよ……その分、お高くてねぇ』

 そんなの、あたしのせいじゃない。

『でももうジュディ夫人はいないし……彼女がいてくれたら……』

 そんなことで溜息をつかれても……あたしが悪いわけじゃない。

『夫人がいないから、ほら。見てご覧なさい。夫である部隊長は薄汚れてしまったわ。妻の管理が行き届かないと、夫も哀れなものね』

 奥さまたちは、直接あたしを罵ったりはしなかった。でもことばの裏側で当てこすりされてたのは……分かった。
 笑顔なのに目が冷たかった。

 なんか、すごく……怖かった。
 知らなかったけど、貴族って言っても偉い貴族と下の貴族がいるんだね。
 奥さまたちは偉いほう。デリックさまは下のほう。逆らっちゃダメなやつ。

 肩身の狭い思いって、これのことだったんだ。
 あの女騎士さまは、親切心であたしに忠告してくれたんだ。行かないほうがいいって。


 ジュディ夫人がいなくなったから、デリックさまは薄汚れてしまった。
 いつも夫人がデリックさまの制服を手洗いでお洗濯もしてたんだって。メイドさんから聞いた。貴族の奥さんなのに、自分でやってたんだって。やっぱ下の貴族だから、そうするしかなかったのかな。

 あたしが洗濯すると複雑な飾りがガタガタになってしまう。どうしてうまくできないんだろう。

 まえは通いの家政婦さんや庭師さんも居たらしいんだけど、その人たち、全員ローズロイズ商会から派遣されてた人で、ジュディ夫人がいない今は来てくれないんだって。

 庭は荒れるばかり。
 家の中も。

 あたしはあたしなりに精一杯やってるんだけど……なにが違うの? どうしたらいいのか分からない。

 そんなとき、デリックさまが怪我をした。もう隊長さんではなくなった。
 毎日早く帰ってくるようになった。

 内勤っていうの? 部署が変わったんだって。
 デリックさまはなにも言ってくれなかったけど、執事さんから教わった。
 役職手当っていうのがなくなって、お給料が下がったことも。

 でも変なの。持ってくるお給料は変わらなかった。
 毎日早く帰ってきて、お金を使っていないのは分かっている。なのに家に入れる金額が変わらないって。
 つまり。
 今までどんだけピンはねしてたの?!

 思い返せば、あたしとデートしてたとき、全部彼の支払いだった。あれって自分の給料を使っていたのよね。生活費まで、全部。

 なんて男なの!

 赤ん坊の泣き声がうるさいなんて文句、あたしに言わないで!
 きみは変わった? 変わったのはあんたよ!

 ケンカばっかり。
 あたしも泣いてばっかり。

 こんなことになるって知ってたら、ダンと結婚してたのにって言ったら『これは俺の子じゃないのか』なんてふざけたことを言うから叩いたら、殴り返された。

 女に手を上げるなんてサイテー!

 その場は執事さんがあたしを庇ってくれたけど、デリックはすっごい怒って『神殿で親子鑑定をする』とか言って出ていった。
 親子鑑定って、金貨が何十枚か必要な高価やつじゃなかった?
 なにをそんな馬鹿なことをってあたしは怒ったんだけど、デリックは聞いてくれなかった。
 どこで用意したのか知らないけど、大金を持って無理やりあたしと赤ん坊を連れて神殿で親子鑑定をお願いした。

 結果?
 もちろんシロよ。あの子はデリックの子だもん。

 あたしはデリックが信じられなくなった。なにが『俺の子なのか……』よ。勝手に騒いで勝手に鑑定して勝手に放心状態になって。
 あたしの不貞を疑っておいてごめんの一言すら言わない。自分勝手でひどい男。

 それに、親子鑑定のせいで借金したからその返済のためって言って、あたしのドレスやアクセサリーを全部持っていっちゃった! ひどい! 
 しかも、こんな安物しかないのかって文句まで言って! あたしがお金持ってるわけないのに!

 メイドさんが『これはジュディ奥さまが残していったもので、以前旦那さまがご用意したものです』って言ったら黙っちゃったけど。
 つまりあれでしょ? まえの奥さまにもろくにお金をかけてなかったってことでしょ? 

 こんなひどい男だとは思ってなかった。
 あたしが好きになったデリックは、もっとシュッとしてて女性にやさしい紳士だった。
 それは全部、ジュディ夫人のバックアップがあったからこそ存在したものだった。

 あたしは幸せになりたかっただけなのに。
 いい男を捕まえて、貴族の奥さまになれると思ったのに。

 結婚した男は、夫人がいなくなったとたんパッとしない野暮ったい男になり下がった。
 貴族とは名ばかりの貧乏臭い男。
 騎士だったくせに女に手をあげる最低な男。
 結婚した妻を労らない最悪な男。

 あたしは貧乏くじを引いてしまったのだ。










※次話デリック(元夫視点)
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