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本編第一章

【2話】勇者との遭遇

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考え事の本筋から脱線したところでそろそろと現実に戻る。

目的のポイントは前方500m程まで近づいてきた。

オブジェクトは現在この目の前の工場廃墟に潜伏している。


どうしてこうもおあつらえ向きな場所に潜むのだろうか。

捕まる側の奴にマニュアルでも配布されてるのか?

等と下らない思考に再び埋まりかけていると丸樹がハンドサインで班の進行を止めた。



「目標地点付近に着いた。回収班αアルファからeエコーまでの5名は先行して裏口を固めろ。

裏口への配置が完了次第、後のfフォックスからtタンゴまでの人員は曝璽者ばくじしゃを伴い建物内に侵入。

侵入後曝璽者ばくじしゃを中心として左右に陣を展開しろ。

オブジェクトとの接触後の発砲は各人の判断に任せるからな。勝手に撃ってよし。

殺さなきゃ手足もいでも、何やっても良いらしいぞ。そのために回復ポーションも連れて来たんだしな。

当初の作戦内容に変更は無しだ。以上。」


丸樹が早口で突入前の最終確認を行うが突入が始まる前に一つ確認しておきたい。


「あの、回収が失敗した場合の今回の救出部隊との合流地点はどこになってますか…?」


安全の確保は今の僕にとって何よりも優先して確認しておきたい事項の一つだ。

通常の現場では毎回撤収部隊がオブジェクト護衛の為に迎えに来る手筈となっている。

今回も同じだと思ったが念の為丸樹に確認を取るといつも通り不躾な返答が返される。


「あ?作戦会議聞いてなかったのか?今回はそこの木偶の坊と俺達で目標を無力化、死に掛けの奴をお前が生かさず殺さず最低限の生命維持。で、生き永らえさせながら財団まで俺達だけで持ち帰んだよ…。」


「え…でもそれだと戦闘で人員が減ってしまったら」


「はぁ……。そもそもな、その撤収部隊の元班長様の藤宮がこの班に組み込まれてんだろ?

いったい誰が迎えに来るんだ?お前の母親か?

上役が奴のデータを元に計算して人員を割り当ててんだからお前や俺が今更四の五の言ってもどうにもならねぇんだよ。」


そもそも、そんな話無かったはずだ。再度丸樹に反論しようと口を開きかけるが藤宮さんがその場をとりなそうと口を開く。


「まぁまぁ、幹也君も能力が戦闘向きじゃないからね。不安な気持ちもわかるよ。

いざとなったら私の箱の中に入ればいいさ。

なに、班長の有難い言葉じゃないか。幹也君も丸樹班長もお互いを肯定しましょうよ。

私の方にもその通達は来ていなかったけど私がこの班に入るってことはそういう事なのかなと思ってたしね。

これも私たち曝璽者を信頼してくれている財団の取り計らいだと思わないかい?」


「あ、まぁ、そうかもしれませんね。わかりました。突入しましょう。

早く捕まえてさっさと帰りましょう。」


曖昧な返事をして適当に流す。


その場を収めようと藤宮さんが出てくるが理論が崩壊している。この人は4年前からそうだ。

藤宮さんの人格は突然変わった。

その前は粗暴で無茶苦茶、当時財団に引き取られたばかりの幼い僕に対してもそれはひどいものだった。

それが曝璽者になったその日から突然別人になってしまった。

財団による心理カウンセリング等が複数回行われたが財団に対して害を及ぼすような精神的変化の兆候が見られなかったためそのまま曝璽者として財団に再雇用され監視下に置かれている。


曝璽者は時たまこのような人格変異が起こるらしい。

能力の特性にある程度符号した性格へと変わる。

防御に特化した能力であれば性格は穏やかに。

攻撃に向いている能力であればより苛烈に変化する。


全員がそうと言うわけではないのでこの変化の法則性に研究者は頭を悩ませている。


幸いなことに僕の性格は奴に能力を与えられてから変わっていない……ように思う。

あくまで主観であり、能力が使えるようになった当時はまだ12歳だ。

親や付き合いの長い友人に確認してもらう以外、変わってるかどうかなんてわからない。

僕にはもうそのどっちも居ない。

まぁ、自分が違和感を感じないのであればそれで困る人は自身も含め、誰もいないってことだ。


「香坂の質問もそれで以上ってことで。お前は一番後に付いて来い。

回復薬に突入と同時に死なれても困るからな。」


「わかりました。」


僕らは間もなくして先行の部隊の連絡を受け、オブジェクトの潜む廃墟に侵入した。

僕らは一列になり通路を進む。

長い通路を抜けると突然開けた場所に出た。

元々工業機械が置かれていたフロアだろうか。以前置いてあった機械が全て取り払われ見渡しが良い。

割れた窓から月明かりが差し、床の一部を照らしている。

ふとそのまま視線を上げ窓に目を向けると

……突然の事に事に息が詰まる。

唐突すぎる。そこに目標が居た。

若い黒髪の男が壊れた窓枠の上に立って月を見ている。

資料で確認した通りの容姿だ。

月の光に照らされた彼は華奢で幼く、儚い印象。この場にはひどく不釣り合いに見えた。

周りの戦闘員からも息を呑むような雰囲気が伝わってくる。

僕たちの気配に気づいたのか最初から気づいていてここでわざわざ

待ち構えていたのか彼はゆっくりとこちらに振り返る。


「こんばんは。今回は前抜け出した時より早かったですね。」

その容姿通り日本語で僕たちに話しかける。

その日僕は異世界の勇者と出会った。
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