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しおりを挟む片方だけ膨らませて彼を見上げる。だいたい今は役柄のことは関係ないから。
しばらく二人で睨み合っていたが、そのうちレオがふい、と視線をそらしてしまった。悪びれた様子で、子どものような拗ねた表情をしている。頬は冬の空気に触れたように真っ赤だった。
「ごめん、そうじゃない。そういう言い方は間違いで、その……俺のお姫さまはルカがよかった。俺だけを見て欲しいということ」
この人本当に日本語が流暢だ。なんで文字を読むことに苦労するのか分からない。
「許して。巻き込んでごめん。でもルカ以外と目覚めのキスはしたくない」
いや大丈夫、お姫さまが僕であろうがなかろうが目覚めのキスの部分は台本でカットする方向で調整しよう。なんか癪なので。お任せください。
「とりあえず話し合おう……?」
僕は頷いた。
正直言ってね、レオ。 今の会話というか……言葉というか……人通りのある廊下で話していい言葉じゃないんだぞ。左からきた君には分からないかもしれないけどね、レオよ。断片的に聞いたら十中八九勘違いするからね。
あまつさえ男同士が手を取ってキスなんて言葉口にしないからね。君は全然気にしないと思うけどみんな聞き耳立ててるよ。僕は燃えて灰になりたいくらいに恥ずかしいんだよ。
こんなに全然通じないのに、僕たち一体どうやって話し合おうか。
僕はとりあえず上履きを脱いで今朝履いてきたブーツに履き替えた。レオはブーツを履く僕を照れ臭そうに待ってくれていた。
「話しながらコーヒーでもどう? ご馳走するよ」
望むところだ。ミルクたっぷりでお願いします。
僕は濡れた傘を忘れずに手にとって、彼の後ろを控えめについていく。
朝にあれ程深々と降っていた牡丹雪は、昼過ぎの晴れ間に茹でられたあと、夕刻の冷たい北風を浴びて凍り始めていた。明日の路面はつるつる滑るに違いない。タイヤや足跡の轍も美しくて僕は好きだ。素肌のままで転ぶと軽い怪我では済まされないスリリングな感じも悪くない。
僕たちは始め後ろと前で同じ通学路を歩いていた。
彼の背中を見つめながら、僕はどうやって僕の思っていることや言いたいことをレオに伝えればいいのだろうと考えた。
単語を一生懸命追って、子どものように指を差しながら声を出して、言葉と事象が繋がった時のレオの表情はとても好きだ。僕まで嬉しくなるのだ。僕はこのやり取りを延々と繰り返すことですらやぶさかではないと感じている。
だけど、「話し合う」となると別だ。
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