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しおりを挟むでも、と彼は言う。でも。
「でもあなたとようやく話ができて、俺はとても嬉しい」
僕はなんだかマフラーに顔を埋めたい気持ちになってそっと俯いた。息が睫毛にかかって水滴が視界でキラキラ光るから、レオくんがすごくキラキラして見えてしまった。
「あなたは、しゃべることができないから、昨日も今日も文字を書いたんだ。でも俺は読めなかった。あなたは俺に、喋れないことを伝えようとしてくれたのに、俺はそれを理解することができなかった。だから、あなたは昨日、あんなに悲しそうな顔をしたんだね。」
レオくんが僕と距離を詰めてくる。
「ごめんね。俺が文字を知らないばっかりに、あなたを傷つけてしまった。ごめんね」
彼は僕の目の前で本当に申し訳なさそうに頭を下げるんだった。
いや違うよ、君が文字を知らないことは悪くないよ。だって左から来たんだもん。知らなくて当たり前だよ。むしろ……僕が喋れないばっかりに、君に謝らせてしまった。
だから、僕もごめんね。
そんな複雑な思いを書くには、塀の余白はなさすぎるし、時間もかかりすぎる。だから、「きにしないで」って、その6文字に僕の思いを込めたんだった。
レオくんは、眉を下げて笑って、ありがとう、と言ってくれた。
よかった。
「あなたの名前は?」
「あさみ るか」
「Luca……いい名前、素敵な名前……ルカ」
ルカ、と彼は歌でも囀るように何度も何度も僕の名前を呼ぶんだった。
僕はその度に心の中でびくびくしていた。柘榴の実を食べた時のような不思議な気持ちになる。扉をノックされてるみたい。変な人。変な人だ。
肩を掴まれた、びっくりして見上げたら、レオくんは思いのほか僕よりずっと背が大きくてもっとびっくりした。プルシャンブルーの瞳が雪のしじまを繕って僕だけを見つめている。
「俺はレオ。レオでいい。レオって言って、ルカ」
レオ。僕は心の中で呟く。レオ。
音のない世界でレオはにこと笑ったので、僕はたじたじしてしまった。通じたのかな。
それから僕たちは色んな話をした。
「ルカ、好きな色は?」
「しろ」
「じゃあ雪が好き?」
「すきだよ」
「四季、好きな四季は?」
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