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しおりを挟む僕の砦はもはや僕のものではなくなってしまった。居場所を奪われた気分でとりあえず踵を返した。だが、レオくんはすぐに僕の存在に気づいてしまったようだった。雪を踏む音を立てないように慎重に歩く僕とは違って、レオくんは大胆に雪を踏みながら豪快な音を立てて僕に駆け寄ってくる。
肩を掴まれて引き止められるのはあまりにも簡単だった。
「待って」
レオくんが綺麗な声で言った。声変わりをとうに終えている声なのに、少し子どもっぽくて優しい。こういうどっちつかずの声は好きだ。
「昨日はごめんなさい。あなたの反応を見て、失礼なことを言ったのだと分かった」
逃げ腰の僕の心はピタリと止まる。声と言葉に引き摺られるように彼を恐る恐る振り返った。
レオくんが整った顔で悪びれた表情をしているのが新鮮だった。肌は粉雪のように白い。僕はまじまじと彼を見つめてしまった。
レオくんは僕から視線を逸らさない。言葉を選ぶような間があって、彼が僕に言った。
「ひらがなは覚えてきた。読むことができる。だから……もう一度文字を書いて。昨日の言葉をもう一度書いて」
僕はレオくんを見ていた。
その眼差しが、あまりにも必死だったから、僕はほだされるように手袋を外した。また嫌な気持ちになってしまっても、いいか、って思えるくらいに、レオくんは真摯だった。
地面に降り積もっていた粉雪を掬って雪玉を作って、乾いた塀の上に滑らせた。
僕は塀に、雪玉で文字を書く。
「しゃべれない」
レオくんは僕の隣にやってくるとまじまじと僕の書いたひらがなを見ていた。僕は僕の書いたひらがなを見ているレオくんを見ていた。やっぱり分からないって言われたらどうしようと思うと悲しい気持ちにもなったし、逆にそうじゃなかった時の期待を思えば胸がぎゅうと締め付けられるような気持ちにもなった。
首を傾げ、眉間にしわを寄せながら、彼は子どもが覚えたてのひらがなを声に出すようにして言う。
「し、や、べ、れ……喋れない? どうして?」
どうして? 僕はしばらく考えたあと、乾いた塀に雪玉を滑らせた。
「まほう」
「魔法? 魔法がかかっているから、喋れないの?」
僕は頷く。
「どうやったら解ける? 呪文がある?」
「わからない」
そうか、とレオくんはフラットな感じで言ったあと、真っ白な顔をほんのり赤く染めて僕の方を向いた。
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