雪解けの朝に

紫野楓

文字の大きさ
上 下
6 / 33

しおりを挟む



 傷つくだけだ。

 こんな馬鹿みたいなことするんじゃなかった。

 屋根のないところから降り積もった雪を掬って書いた文字の上にそれをかけて文字を消した。

 笑って見せたけどきっと変な顔だったろうな。首を横に振ってレオくんの前からいなくなることにした。牽制するように手を振り一人で扉を開けて閉じる。それだけでは怖かったので鍵をかけておくことにした。ごめんねレオくん。

 女子にでも窓から入れてもらってください。

 やっぱり一人の方がずっといい。



 *.○。・.: * .。○・。.。:*



 その日、もうレオくんは僕の前に姿を現すことはなかった。僕の心臓は昼休みが終わって五限目の授業が始まってもドキドキしていたし痛かった。ユウウツの上にユウウツをコーティングしてユウウツでアイシングしたような気持ちを引き摺って家に帰って寝て起きたら晴れていたので少し元気になったから僕はいつもみたいに早起きして高校に向かった。

 僕が朝一番に高校に行くのは通学路が静かだからだ。冬の朝は寝ぼすけだから、空はまだ夜の裾野を覗かせていて趣がある。眠っている住宅街のシルエットから明けの明星がキラキラ光っている。誰にも侵されていない綺麗な雪の絨毯を一人で歩くのは気分がよい。雪の積もらなかった場所には張り詰めるように霜が降りていた。タイヤの轍も美しく、冷えた脚先に力を加えて踏めばよい音が鳴る。

 誰もいない眠っている世界で、僕だけが音を鳴らしている。鼻先の冷たさすらも心地いい。僕は声が出ないから、音を鳴らしているという事実がとてもとても、心地いいのだ。喋れているような気分になる。声はなくても、音を紡げている気になる。

 誰にも届かなくてもこの音は僕が響かせている、って、いつもより二割くらい嬉しくなって、その百倍くらい寂しい気持ちになるんだった。

 そういうセンチメンタルに酔いしれることができるので、まっさらな雪の絨毯を踏み歩くのは最高だったのだけど、どういうわけか今日は雪の道に一人分の足跡が付いている。初めのうちは気にしていなかったが足跡は明らかに高校に向かって伸びていた。これはまずい予感がする。

 僕より早く通学路に足を踏み入れる不届き者に嫌な気分になりながら門をくぐった。

 その足跡は校舎裏まで伸びている。

 冗談はやめてくれ。恐る恐る花壇の方に歩みを進めた。

 花壇の縁に外套を羽織って頬を真っ赤にしたレオくんが座っている。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...