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しおりを挟む「避けて、彼と話がしたいから。ついてこないで」
彼は張り詰めるような声でぴしゃりと人だかりに言うと、僕を引き摺って教室を出た。僕はうろうろする視線でレオくんの取り巻きたちが僕をすごい顔で見ている様子を感じとる。聞こえない声が心に雪崩れ込んでくるようだ。なんであいつがレオくんを独占するのか、どうしてレオくんはあんなヤツを気にかけるのか、なんて。
一番酷い顔をしていたのは鳥口だった。レオくんのそばにずっといたから表情がよく見えた。僕は鳥口のあんな表情を見たことがない。いやそもそも鳥口の表情なんててんで知らないけれどさ。
レオくんは僕を体育館に向かう外の渡り廊下に連れてきた。寒いので人気がまるで無いし教室からも遠いので風の音しか聞こえない。なるほどこの場所だったらサシで話ができる。
外では細雪がはらはらと舞っては落ち、落ちては舞っていた。
寒いけどレオくんに掴まれている腕だけがむず痒くて暑い。
「なにか隠していることがある? あなたの名前は? あなたは朝あそこにいたよね」
レオくんは渡り廊下からかろうじて見える例の花壇の方を指差して、僕を真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐに見つめて言った。
僕はなにも反応できずに俯く。
「花壇の上に雪だるまを作ったのはあなた?」
レオくんは左の方から来た留学生なのに、言葉が随分流暢だ。
しかしレオくん……貴様なぜあそこに雪だるまがいることを知っている? 随分気になった。僕の不可侵領域のトップシークレットをなぜ彼が知っているのか。僕は聞く権利があるのではないか。今後のために。あそこは砦だ。僕が一人になることができる、僕の唯一の砦なのだ。
僕がなにも言わないことをにしびれを切らしたのか、レオくんは少し強い口調で僕に言った。
「どうしてなにも話さないの? 俺と話すのが嫌?」
僕はおもむろに腕を空に向かって伸ばした。手のひらに雪が落ちる。解けていく雪の結晶たちをもう片方の指ですくって、渡り廊下の地面のコンクリートに指を滑らせた。
震える指で文字を書く。
「違う」。「声が出ないんだ」。
それを見てレオくんは首を傾げるんだった。
「言葉は話すことができる。聞くこともできる。でも文字は読めない」
レオくんの声は氷柱のように僕の胸に突き刺さった。
「だからこれも分からない。読めない」
素直だな。素直で、その言葉はしんどい。
僕はやっぱり誰とも関係を持ちたくないな。
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