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しおりを挟む僕も僕で蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなかった。瞳の色はプルシャンブルーを氷の中に溶かし込んだような深くて透き通った色だった。目が離せない。
早く向こうを向いてほしい。
「換気が終わったらストーブに火をつけて、朝の掃除! 薬缶に水も入れてきて。みんなが来てしまう前に……早くしてよね」
レオくんが女子に咎められている。日直とはお気の毒。まあ日直じゃなければこんな朝早くに高校に来るはずないか。だけど残念なことに彼は鳥口の話などまるで聞いていない。
「レオくん! もう……どうしたの?」
「綺麗な人」
「……え?」
レオくんは声が裏返った女生徒を振り返る。
「綺麗な人だ」
視線が逸れた瞬間、僕は金縛りが溶けたように体が自由になるのを感じた。立ち上がって一目散に彼の死角へ逃げ込む。雪が潰れる音がいつまでも耳にこだました。
……綺麗な人。
熱い頬に触れたら外気に充てられて氷のように冷たかった。指先が水滴を作って滑り落ちる。
なんか騒がしい朝だな。
*.○。・.: * .。○・。.。:*
昼休みが大嫌いだ。授業と授業の間の十分間の休憩は我慢できる。本に目を落とせば結構直ぐに通り過ぎていく。でも昼休みはそれの五倍もあるのだ。僕の心はユウウツをユウウツでコーティングしたくらいにユウウツになる。しんど。
僕の耳は嫌でも周囲の音を……声を拾う。今日のお弁当の話、授業の話、部活の話、好きな人の話……笑い声、びっくりする声、おどけた声、震えた声、かすれ声……話し声が耳について仕方がなく、本にも集中することができない。
僕といえば、話しかけてくる人はいないし、僕から誰かに話しかけるわけでもない。だけど同級の仲間から仲間はずれにされている訳ではないしいじめられたり厄介者だと思われたりしている訳ではない。空間に居場所はある。逆にそれが辛いというのは贅沢なんだろうか。
人の輪に入れないのは、僕に意気地が無いからか。
それとも声が、ないからか。
そんなことをぐるぐる考える昼休みは本当に長い。長いはずなんだけど。
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