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なんでそんなに
しおりを挟む「……なんでそんなに笑顔なの?」
控えめに小夜に訊ねたらすぐに答えを返される。まるで世界の始まりからずっとある理だとでも言うような堂々とした感じだった。
「あなたが笑顔だからよ」
小夜が言い放った言葉の意味をしばらく考えていた。あんまり自分で笑っているつもりはなかった。前までの自分がどれほど沈んだ顔をしていたか想像したけれど思い起こすのは難しかった。
「さて……あなたは誰に笑顔にしてもらったのかしら……?」
春人は反射でミチルの方を見てしまう。慌てて視線を戻したけどもう遅い。小夜が軽やかに感づいて笑った。
「小夜ちゃん……いじわるだよ……!」
文句を言うように口を尖らせて小夜に言うけど、小夜は真面目に取り合ってはくれない。
「ええ、いじわるね」
彼女はあっけらかんとして言った。
「いじわるだね」
ミチルも便乗する。
なんだこの二人。絶対グルだし……二人とも大切。凄く嬉しい。今もこうやって話をできることが。小夜と仲良くできることが。つい何週間か前までは微塵も想像できなかった未来だ。
夢みたいで、幸せだった。
でもこれは夢じゃない。
心が優しく解けていくような気持ちがした。ありがとう、という言葉でいっぱいになる。この言葉に形があるなら、風船につけて、色んなところへ飛ばしたいくらいだった。こんな気持ちで溢れるのはいつぶりだろう、と春人は考える。もうすっかり思い出せなかった。
そのうちちらほらと他のクラスメイトが教室に入ってきた。小夜とミチルが顔を見合わせて目配せしている。春人からしてみればただの目配せだったが、それは彼女達の中で別の意味を内包している。そんな目配せだった。
学校を休んでいる間に、ミチルと小夜はすっかり仲良しになったようだった。考えてみると趣味も好みも似ているし、腑に落ちる所がある。二人とも広義だけど甘いものが好きで、縫い物も好んでやっている。
いいなぁと思った。
自分が好きな人と好きな人が仲良くしているのを見るとすごく心がぽかぽかする。そしてその輪の中に自分が入れてもらえることがとても幸せだった。
春人はそんな気持ちになりながら二人を見ていた。
突然ミチルが春人の方を向く。
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