97 / 103
9
春人、大好き!
しおりを挟む春人は言葉の続きを待つ。指を絡められた。ミチルは林檎酒を飲んだ後みたいに頬をばら色に染めて春人の顔を見てくる。宇宙を閉じ込めた瞳が、流星群を落とし込んだみたいにきらきら光って美しかった。
「春人を抱いてもいいかな」
上擦って少し枯れた彼の言葉は水の波紋のように震えて広がって、春人の心に響いていく。
処女みたいに扱われるのはかなり新鮮な気持ちがした。そしてそんなふうに扱ってくれる彼がすごくすごく愛しくて、嬉しくて、幸せだった。この人にとってみたら自分は処女なのかもしれない……それに僕も……心までは売ってない。
笑った。照れくさい。朝からすごいことを言われた。
「……うん」
勢いよく抱きしめられる。
「春人、大好き!」
好きの表現の仕方が単純明快で子どもじみていて笑えてくる。でもミチルらしくていいなと思った。すっごい苦しい。苦しいって言ったら離されたけどすぐに頬にキスされた。
「ここ学校だよ!」
恥ずかしくて突き放してしまった。
自分の中にこんな初心な気持ちがあるなんて知らなかった。
「誰もいないからいいでしょ」
ミチルは少しの悪びれた様子もない。それどころか春人の反応を楽しんでいるようにも見えた。笑顔だけはさわやかで、心の中でこの野郎、と思わず罵った。
「でも……そろそろ来ると思うんだけど」
そう続けて彼は教室の時計の方を見た。春人もつられてそちらを見る。
教室の扉が勢いよく開いた。
タイミングが神がかっている。
びっくりしている春人の横で、ミチルがわお、と感嘆の声を洩らしていた。
華奢な女生徒のシルエットが朝日に反射して眩しい。ふわふわの髪が歩く度にゆらゆら揺れていた。彼女は二つの鞄を持っていた。一つはなんの装飾も無い地味な鞄で、もう一つは手提げのところに遠慮がちにキャラメル色の細いリボンと、フェルトで作ったやけに完成度の高いアイスクリームのストラップがついている。
ひまわりだって恥じらうくらいの笑顔で小夜は言った。
「おはよう」
ミチルが手を振る。
「おはよう小夜」
小夜は春人の前まで来ると地味な鞄を春人に向かって差し出した。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる