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語り始めた。
しおりを挟む「ここはどこ……?」
春人は静かにミチルに訊ねた。
ミチルが笑顔のままで深呼吸する。そして口を開けた。
「ここはⅠ区でいちばん大きなビルの4階だよ。一階は春人もよく知ってると思うけど……ベビードールのメゾン、ICHIKAのお店をやっていて、四階はオフィスと制作所を兼ねているんだ。それでこの部屋は休憩室……だったところだけど、俺が私物化して……親も忙しいからさ、よくここで生活してるんだよね。もうほぼ俺の部屋」
ミチルは苦笑した。
春人は彼の話に若干ついていけない。よくよく噛み砕いて理解した。とりあえずここはICHIKAのお店の上の階らしい。それで……なんでICHIKAのビルの一部屋を、ミチルが私物化しているんだ?
春人の疑問に答えるように、ミチルはゆっくり話し出す。
「実はね……ICHIKAのメゾンを立ち上げたのは、俺の親なんだ」
「え……?」
「俺も結構、親に似て、服のデザイン考えたり、縫い物したりが好きで……誰にも言ってなかったんだけど……」
ミチルは恥ずかしそうに頬を掻く。
じゃあテーブルの上のミシンはミチルが使っていたんだな、と漠然と思う。
「おかしいかな……?」
ミチルが言った。春人は首を横に振る。
「全然」
びっくりしたけど、別におかしくない。
「ありがとう……それで……見て」
ミチルは立ち上がるとベッドの端に腰掛けて、窓の方を指差した。
「ここから、Ⅰ区がよく見えるでしょう」
春人は窓を覗き込む。確かに見慣れた道、見慣れた場所だった。ICHIKAのお店の上から眺めたら、表通りはこんな感じだろうなっていうそのものが目の前に広がっている。それをみてようやく実感がわいてきた。本当にここはICHIKAのビルの四階で、ミチルはICHIKAのお店と関係がある人物なんだ、って。
不意にミチルの視線を感じて、春人はミチルの方を見た。ミチルは昔を懐かしむような顔をして微笑している。儚い絵画のような横顔が窓の外を見つめていた。言うか言わないか迷っているような感じが見て取れる。春人は黙ってその横顔を見ていた。
彼がひとつ、くしゃっと笑って、語り始めた。
「中学の時だったかな……もう、毎日が退屈でさ……やることもなくて……夕方、ぼーっとこの窓の外を見ていたら、俺と同じくらいの男の子を見かけた。I区で自分と同じくらいの歳の子なんてなかなか見かけないから興味本位で眺めてた……遠くから見ていても、やけに垢抜けている感じが伝わってきた。すごく優美で……それなのに信じられないくらい寂しそうで……いつも違う男の人と落ち合ってホテル街に消えてたから、ああ、そういう感じの子なのかなって……」
春人はどきっとした。黙ってミチルの話に耳を傾ける。
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