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全部終わりにしたい
しおりを挟む平和に笑っている窓の向こうの小夜は、違う世界の人間で、ミチルだってあちら側の人間で、そっち側の人間の『親身になって聞いてくれる』相談の範疇なんて、こちら側のえげつない悩みなんて、まるで宇宙の果ての世界の話のように彼女達に聞こえるに違いない。
だって住む世界が違うんだから。
「ミチルくん、あなたのこと大好きだって、言ってたの」
窓の向こうの小夜が言った。
吐きそうだった。
「……やめて」
春人は思わず顔を真っ赤な手で覆った。
「聞きたくない……!」
視界が揺れる。
「聞きたくない!」
逃げるように音楽室を出た。遠くで小夜が名前を呼んでいる。無視して中履きの靴のまま校舎を飛び出した。このまま走って空気の摩擦で死にたい。このまま流星になって燃えて消えてしまいたい。行くあてはないけれどどこにもいたくない。消えたい、忘れたい。学校も、母親も、傷も、小夜も、野乃花も、芒も、ミチルも………もうなにも要らない、なにも、……なにもいらない!
全部終わりにしたい。
不意に闇に包みこまれた。
まるで真空に抱かれているかのような気分だった。立ち込める人工的な香水の香り。
誰なのか匂いですぐに分かった。
「……すごくいいかおしてる……ICHIKA……」
海が後ろから春との顔を覗き込む。
変わらない真っ赤な瞳がぎょろぎょろとなめ回すように見ている。
顎を掴まれて顔を海の方に向かせられた。
海が笑う。春人はしばらく、呆然と海を見ていた。
青白い肌を最小限に隠す黒づくめの姿。真っ赤な双眼。細く鋭い指と爪。彼がこんなに心地いいと思ったのは後にも先にもこれが最後だった。ずっとその目で見て欲しい。ずっと離さないで真っ暗闇に放り投げて欲しい。
酷い麻酔を刺されたのかもしれない。お得意の姿を消す魔法で、いつの間にか脳髄に猛毒をぶっ刺されていたのかもしれない。
こんなに心地いい。
死にたい? と聞いてくる海。
深く沈んでいきたくなるような微睡み。
春人は言った。
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