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僕の居場所は
しおりを挟む運動部はシーズンオフ、部活動の時間と寒さがあいまって、中庭に出ようとする生徒はいなかった。久しぶりにいい天気だ。風も無かったし、日差しも冬の細やかなものだったが、鮮やかに照っていて過ごしやすい。教室にはできるだけいたくなかった。
春人は木の陰に隠れるように校舎に背を向けておずおずと参考書を手に持った。家に帰る時間にはまだ早い。せめて母が出勤する時間まではどこかで暇を潰したかった。最近は勉強もおざなりで、成績のことも気になっている。
「いっ、た……」
参考書を開こうとした瞬間、動かした右腕に痛みが走って、思わず本を落としてしまう。かなり痺れている。恐る恐るブレザーをめくった。やっぱりワイシャツには血が滲んでいる。
袖のボタンを外してシャツをめくった。昨日付けた沢山の傷がまだ乾かない。傷をつけすぎた皮膚は段々固く、鈍い色で変色してしまっている。その上に出来た新たな傷は痛みが通りにくくて深さが分からなくなっていた。
この腕を見て死にたいんでしょ、と海は言った。気持ち悪いと野乃花は言った。
春人はそれに対してなにも反論することができない。本当は違ったのかもしれない。でも、そう言われると、自分は死にたいんじゃないかと思ってしまう。そんなことないはずだったんだけど。気持ち悪い、は言われ慣れているからあまり心に響かなかったけれど、でも、やっぱりそうなんだよな、と改めて認識させられた。
この傷を見て平然としていられる人間が果たして何人いるっていうんだろう。
そう思うと自分がどんどん人間とはかけ離れているなにかに思えてくる。自分に人権なんかないんだって、人間じゃないものが、人間みたいな恋、できるはずない。ばかだ。
こうしている今でも腕に慢性的な痛みを感じないのは慣れてしまったからなんだと思った。それが怖くてまた上から切った。これまで失ってしまったら、僕はどこに救いを求めればいいのか分からない。
自分がなにをするか分からない。でも昨日からまるで魔法が解けてしまったように傷をつけてもつけても心の苦しみが消えない。
春人はそっとブレザーの袖を下げた。
僕の居場所はもう、ここにしかないんだ。
体は昨日より間違いなく回復しているはずなのにすごく疲れていた。できるなら指一本も動かしたくないくらい。座っているのも辛い。横になっているのも辛い。立っているのも辛い。目を閉じていても辛い。なにをしても疲れる。なにもしなくても疲れる。今もこうして参考書を開いているけれど少しも頭に入ってこない。
吐きそうなくらい頭が鈍く痛んだ。腹部は空腹なはずなのに重く気持ちが悪く、食べ物を受け付けようとしない。頭がぼーっとしてきた。参考書の文字を映す瞳は焦点がぶれてしまって、なかなかすらすらと読むことができない。
春人は参考書を地面に置いて、抱えた脚に顔を埋めた。
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