ICHIKAのトルソーとハニーレモンフレーバーの夜想曲

６

私、すごく、感動した

「なんで……ッ！」

　昨日の芒との情事の画像だった。羽交い絞めにされて、口で芒のボタンを外している姿、深緑のベビードールを着て、芒の雄を受け入れている姿、首を絞められている姿……一枚だけじゃなく、何枚も、何枚もあった。誰が撮ったのか、芒が撮らせたのか分からないけれどここに写真があるというのは否定のしようがない事実だ。

　人違いだと言うにはあまりにも鮮明で、よく見れば自分だと分かってしまうだろう。体の傷と照らし合わされれば絶対に言い逃れはできないし、ついでに腕の傷のことにだって言及されるだろう。

「女の子になりたいの？」

「違う」

「安形くんと付き合うために……？」

「違う……！」

「じゃあなんなのこれ、ねえ、ずっとやってるんですって？　高校入学前にはもうＩ区で有名だったって聞いたけど。すっごい高値を要求して来るけど、夢みたいな夜を過ごさせてくれる男の子がいるって……あなた、今までよく隠し通せたわね。すごい、尊敬する。だって私すら知らなかったんだもの……家族にもバレなかったの？　信じられない……この傷……信じられないくらい気持ち悪い……ああ、でも……家族はお母さんしかいないんだっけ？　もう何か月も母親と会ってないんですってね」

　春人は野乃花が怖くなった。なんでそこまで知っている？　そんなことごく限られた人しかしらない。教職員をのぞけば、春人の家庭内事情を知っている人なんて……。

「お母さんの真似だったの？　あなたのお母さんもそういう仕事してるんでしょ？　お母さんに教えてもらったの？　男のたぶらかしかた！　ねえ、どうやって安形くんをたぶらかしたの？　教えてくれる？」

「……誰から……」

「あなたと安形くんがよく喋るようになって……安形くんを追ってた時……知り合ったの……期末考査の直前だった……すごく息があってね、私が学校のあなたのことを教えてあげる代わりに、ICHIKAのことを教えてくれたの。情報交換ってやつ、win-winな交渉」

　期末考査の時期からとっくに野乃花は春人の秘密を知っていた……その事実がさらに春人を煽った。

「私、すごく、感動した。あなたの弱みを握られたことが」

　野乃花は苦渋に満ちた顔をしながら僅かに微笑する。

「すごく……興奮した。ずっと、ずっと温めていたけど……決めたの。今。今この画像を流す。先生にも告げ口する。もちろん、真っ先に安形くんにも伝える」

　野乃花の指一つで自分の人生のすべてが終わる。今まで築き上げてきた必死で守り通してきた事実が知れ渡る。ちょっとだけ、ちょっと画面に、野乃花の指が触れるだけで、それだけで全部終わる。その現実が理解できなかった。