60 / 103
6
その傷どうしたの?
しおりを挟むただでさえ整っている顔なのに、はっきりとした敵意を向けられると刃を首元に突き付けられているような緊張が体中を走る。
「大丈夫? 立てる?」
どんな言葉をかけていいのかわからず、上手く状況も呑みこめない。優しい言葉とは裏腹に野乃花は容赦なく春人の襟を掴んで持ち上げた。傷が痛い。
立てる、と言って野乃花の手をよけると、春人はなんとか立ち上がった。
「ついて来て」
野乃花の後ろ姿は誰もが振り向いて目を向けてしまうような、まるで美しい高校生の模範のようだった。
歩き方の所作もため息を吐いてしまうくらいで、細くしなやかな脚は健康的なのに白く輝いて見える。肩より伸びた黒髪が歩く度に弾んでいた。
「早く」
立ち止まっていると振り返って睨みつけられた。美人は怒るとものすごい迫力がある。まだなにも話を聞いていないのに、こちらに非があると自然と思ってしまう。
春人がぎこちない歩き方で、なんとか野乃花の歩幅について行った。身長は春人の方が若干高いけれど、野乃花の歩幅は大きく、隙もなく、洗練されていて、少しの迷いもない。
誰の目も届かないような校舎の裏を通って通された場所は外にあるテニス部の部室だった。
ここには一度だけお邪魔したことがある。
野乃花が扉を開けて、入るようにと顎で指示してくる。すごく入りたくなかった。なんとなくもう分かってしまった。ほんとこういうことになると察しがいい自分が恨めしい。なにを言われるのか分かってしまった気がする。
嫌だ、すごく嫌だ。
戸惑っていたら突然腕を掴まれた。
「う、わッ……あッ!」
普段の春人だったら、それをはねつけられたかもしれないけれど、心も体も生傷と青あざでいっぱいの体では少しの抵抗もできなかった。テーブルになんとか手をついたが、そのままガクッと膝が折れて、たまらず床に座り込んだ。腰に響いて、体が痙攣する。手を床について浅く息をしながら痛みが一刻も早く通り過ぎていくのを切に願う。
扉が閉まった。野乃花が静かに鍵をかけるのが見える。春人は諦めて力を抜いた。彼女はまるで容赦がなかった。首を掴まれる。しかもあえて海の噛み痕を狙うようにして襟を引っ張ってきた。
「その傷どうしたの?」
「いっ! た……ッ……」
「誰に噛まれた傷でしょう?」
背筋が凍りついた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる