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馬鹿な春人、醜い春人、可哀想な春人
しおりを挟むなにも考えなくてもいいように。
想像しよう。
どこがいいかな。どこでもいい、川があって、花があって、空があって、温かい風が吹いている。水のせせらぎが聞こえてきて、小鳥が囀っている。隣に、は……。
「……泣かないんですね? 春人……? 悲しくないんですか? 絶望しませんか? 罪悪感を感じませんか?」
芒はちょっと予想外だ、と言う顔をした。驚きや、悲しみや、悦や、嬉しさを言葉で、表情で表現するけれど、彼の瞳はいつも笑っていない。曇りガラスみたいにこちらからは見えない。
「お前の泣くところが早くみたいですね」
もう体が動かなかった。少しも言うことを聞かない。
しばらく目を閉じていた。空想に浸っていたかった。ここじゃないどこかへいる自分を想像する。想像してもしても、中で再び熱を持ち始めた芒の性器と、精液の匂いと、自分の汗の匂いが、現実を酷いくらい鮮明に教えてくれる。
「そういえば、随分噂になってますよ、お前がタダでヤらせてくれる、って。お金を取らないなんて馬鹿ですね。お前はお金に守られていたのに……これからどんどん声をかけられますよ」
あの時感じた嫌な予感は本当だった。もう今更遅い。
最近よく声を掛けられるし、信じられないくらいの値段で交渉されることがあるのは、そういうわけなんだと妙に納得した。
もうどうでもいいや。
「馬鹿な春人、醜い春人、可哀想な春人」
春人はそう笑って見下ろしている芒へ、動かない体に鞭打って腕を伸ばした。首に腕を絡めておずおずと芒引き寄せる。
「……はい」
「案外可愛いところもあるんですけどね」
芒は乾いた声でそう言った。
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