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悲しい
しおりを挟む血を見ることには慣れているけれど、こんなにたくさん血が流れてしまったらふらふらしてしまうかもしれない。
まずい。とてもまずい。
どうしよう、と思ったけれど、とりあえず患部から血が止まるのを待つしかなかった。
じわじわと血の赤黒い色で制服が浸食されていく。
早く暗くなってほしい。夜の影で服の色が目立たなくなるには、もう少し時間が必要だ。芒の元へ行く時間にはまだ余裕があるので、春人は目を閉じて少しでも身体の体力消費を抑えることにした。
海に攻められたさっきまでのことが頭を過ぎって、酷い心細さに襲われる。そんなこと思ったことないのに助けてほしいと漠然と感じた。
こんな苦しいとき隣に誰かがいてくれたらいいのにと考えてしまう。
なんでこんな弱くなったんだろう。少し前まではそんなこと考えることすらしなかったのに……春人は深いため息を吐いた。息が白む。寒かったのが救いだった。患部の感覚が、寒さで少し鈍い。
もしも話なんていくつもいくつも、何度も何度も考えた……ここじゃないどこかに、僕が行く、もしも話。それに集中してしまえば、どんなことをされても少しも動じなかったのに。それなのに今は、今はただ……。
ミチルに隣にいて欲しい……彼の笑顔が見たい。
なんでこんなことになったんだろう、と思う。僕が普通の高校生だったらよかったのに。体も売らない。傷もつけない。媚びも売らない。金もとらない。普通の。普通の、綺麗な、綺麗な人間であればよかったのに。
そうしたら、小夜も離れていかなかったかもしれない。ミチルの好きにも応えられたのかもしれない。こんなもしも話にトリップしても嫌になるだけだった。
今更遅いと分かっている。あったことをなかったことにすることはできない。
その事実が、今はとても、悲しい。
*
芒はI区で一番立派なホテルの最上階で待っていた。
扉を開けたら天蓋つきの大きなベッドにいつものように腰かけている。長い脚を組んで、美味しそうに煙草を吸っていた。フォーマルな格好だけれど彼はいつもそれを自分なりに着崩している。
それがとても優雅で大人の色気がある。
そして信じられないくらい整った顔をしている。日本人離れした鼻筋の通った鼻に、人形のように大きな色素の薄い色の瞳、歳相応のマイルドな目元の小皺が、吐きそうなくらいの迫力があった。前髪は自然なストレートの、男にしてはほんの少し長い髪を、右側だけ耳にかけている。見た目や雰囲気の割に髪が清楚だから、凄く清潔そうに見えた。
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