上 下
47 / 103

しつこい

しおりを挟む



「あの……ストロベリー・パイが、いいのでは……? 紅が、あいますよ、ICHIKAの、傷だらけの……からだには……そういう、プレイを、するのでは……? ぜひ、ぼくも、やってみたい。ICHIKAのくちに……つっこむのもいいかも……てで、すくった、ジャムを……くちにはこぶ、ICHIKA……いいね……?」

 春人は海の戯言を無視して背を向けて歩き出す。

 彼の足音は人の足音に紛れて聞こえないけれど絶対に着いて来ている。いつも影のように春人にひっそりと付きまとっている彼が話しかけてくるのは久しぶりだった。意識しないと存在を忘れてしまいそうなくらい隠れるのが上手い。

 早足に歩いても人ごみの中に隠れてもついてくる。しかもわざと尾行していると分かるようについてくるのが鼻についた。

 春人は人通りの無いビル裏の路地にわざと入った。

 海を待ち構えて、立ち止まる。

「しつこい……」

 控えめに睨みつけながらできるだけ低い声で言った。

 ビルとビルの陰になった間から、ゆらり、と現れた海は、やっぱり春人よりも一五センチ以上も背が高くて、細くて、なんとも言えない迫力があった。

 海が無言で春人を見下ろしている。

「ずっとまっているのだけれど」

 マスクとマフラーに隠れた口で、海は言った。

 抑揚のない無機質な声だった。

「……もうついて来ないでください」

「ぼくがシュチョウしないときづかないくらいどんくさいので、ついてきていることもわからないことのほうがおおいのに、ついてこないで、なんて、おこがましいとおもう……」

 平坦な声で言うと、海は首を傾げながら春人に歩み寄ってくる。

「きみがそのきになったとき、いつでもあいてをしてあげられるように、そばでみてるだけ、いつでもすぐ、できるように……ずっとよういしてる……きょうは、なんか。死にたそうなかんじだったので、こえをかけてあげただけ……きみにはうつくしく死ぬサイノウがあるとおもう……なんども、いっているのだけれど……?」

 春人は海が近づく度に一歩ずつ退いた。後ろには逃げ道がある。大丈夫だ、と自分をなだめながら海を睨み続ける。

「きみが死ねないかわりに……ぼくが殺してあげようというとてもシンミでwin-winなテイアンなのに」

「死にたいと思った時なんて一度もありません」

「ごじょうだんを。リスカもアムカもレグカもおてのものなのに……? きょうみは、あるんでしょう? 死ぬことについて……? あわよくば、死にたいのでは……?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...