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しつこい
しおりを挟む「あの……ストロベリー・パイが、いいのでは……? 紅が、あいますよ、ICHIKAの、傷だらけの……からだには……そういう、プレイを、するのでは……? ぜひ、ぼくも、やってみたい。ICHIKAのくちに……つっこむのもいいかも……てで、すくった、ジャムを……くちにはこぶ、ICHIKA……いいね……?」
春人は海の戯言を無視して背を向けて歩き出す。
彼の足音は人の足音に紛れて聞こえないけれど絶対に着いて来ている。いつも影のように春人にひっそりと付きまとっている彼が話しかけてくるのは久しぶりだった。意識しないと存在を忘れてしまいそうなくらい隠れるのが上手い。
早足に歩いても人ごみの中に隠れてもついてくる。しかもわざと尾行していると分かるようについてくるのが鼻についた。
春人は人通りの無いビル裏の路地にわざと入った。
海を待ち構えて、立ち止まる。
「しつこい……」
控えめに睨みつけながらできるだけ低い声で言った。
ビルとビルの陰になった間から、ゆらり、と現れた海は、やっぱり春人よりも一五センチ以上も背が高くて、細くて、なんとも言えない迫力があった。
海が無言で春人を見下ろしている。
「ずっとまっているのだけれど」
マスクとマフラーに隠れた口で、海は言った。
抑揚のない無機質な声だった。
「……もうついて来ないでください」
「ぼくがシュチョウしないときづかないくらいどんくさいので、ついてきていることもわからないことのほうがおおいのに、ついてこないで、なんて、おこがましいとおもう……」
平坦な声で言うと、海は首を傾げながら春人に歩み寄ってくる。
「きみがそのきになったとき、いつでもあいてをしてあげられるように、そばでみてるだけ、いつでもすぐ、できるように……ずっとよういしてる……きょうは、なんか。死にたそうなかんじだったので、こえをかけてあげただけ……きみにはうつくしく死ぬサイノウがあるとおもう……なんども、いっているのだけれど……?」
春人は海が近づく度に一歩ずつ退いた。後ろには逃げ道がある。大丈夫だ、と自分をなだめながら海を睨み続ける。
「きみが死ねないかわりに……ぼくが殺してあげようというとてもシンミでwin-winなテイアンなのに」
「死にたいと思った時なんて一度もありません」
「ごじょうだんを。リスカもアムカもレグカもおてのものなのに……? きょうみは、あるんでしょう? 死ぬことについて……? あわよくば、死にたいのでは……?」
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