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「死ぬ」
しおりを挟む「……こんなのは良くないよね……あのね、俺の家族が……昔、野乃花の家族に、酷いことをしてしまったみたい……それでなんとなく、野乃花の好意を足蹴にできなくて」
俯いてばつが悪そうに笑う彼の横顔は秋の優しい木漏れ日にも溶けて消えてしまいそうなくらい儚く見えた。
「誘いも、上手く断れなくて……前は、それでもいいかなって、思ってたんだけど……野乃花が幸せな気持ちになるなら、良いと思ってたんだけど……」
「野乃花ちゃんはミチルくんのことが好きなんだと思うけど」
ミチルは首を横に振った。
「分からない。でも、好きで傍にいてくれるのなら、嬉しい……とは思う」
ミチルは困ったように笑った。ミチルの容姿は本当に美しいし、性格だって良い。誰にでも優しいし、ちょっとお茶目なところが女心をくすぐってやまないだろう。
「ダメだね、償いの気持ちであんな素敵な女の子を弄んじゃ」
「弄んでるなんて……」
「そう見えないかもしれないけれど、結局俺は、野乃花の気持ちには応えられないのに、都合が悪くて答えを先延ばしにしてるだけ。それって野乃花に悪い。だって、俺は俺だし、野乃花は野乃花だ、そう思わない?」
突然聞かれても返答に困る。ミチルはミチルだし、野乃花は野乃花だ。そんな当たり前のことに念を押す必要があるのだろうか。真意は分からなかったけれど、なんとなくそうなんじゃないかと思って曖昧に頷く。ミチルは春人の反応にくすりと笑った。
「野乃花にはちゃんと打ち明けることにする」
なにを打ち明けるんだろう? 春人は、自分には入り込めない事情なのかもしれないと漠然と感じた。それにミチルの中で答えはたぶん決まっていたんだと思う。誰かに聞いて欲しかったんだ。それで自分を納得させたかったのだ。その相手として選ばれたのだとしたらちょっと光栄なことだと思う。
だけど僕にミチルの人間関係を指図するような権利があるわけがない、と春人は首を横に振った。
「野乃花ちゃんと仲良くするとかしないとか、そういうことをして欲しいんじゃない」
動揺して言葉を間違えた。言い方が悪かった。これじゃあまるでミチルになにかを望んでいるというようなニュアンスだ。
「じゃあなにをして欲しい?」
深い意味はないのにミチルはちゃんとその言葉を拾う。
「言って。俺、春人が願うこと、なんでもする」
「……死んでって願ったら死ぬの?」
「死ぬ」
ミチルは本気だった。視線がそう言っている。触れた手を力強く握られた。その視線と熱にほだされてしまいそうだ。くらくらした。そんなに見つめられると困ってしまう。
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