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一日だけ
しおりを挟む春人に話を聞いてくるクラスメイトもいたけれど、笑ってごまかしてなにも言わなければ諦めて離れていった……例えば僕と小夜が、野乃花よりも影響力のある人間であったなら、こんな噂なんか広まるはずがなかっただろう。
目立たないというのは、いろんな意味でむず痒い。
もちろんミチルの耳にも入っているはずだった。それに見てもいたはずだ。だけどミチルは春人にその噂について少しも言及しなければ、あえて話題に出すことすらしなかった。いつも通りのミチルだった。
それが怖かった。
話が出ないから弁明も言い訳も事実も伝えられない。知らないはずないのにまるで知らないみたいな顔をしている。本当に知らないのか分からない。話しかけられるたびに、その宇宙のように果てしなく透き通っている瞳に真っ直ぐ見つめられて、つい目を逸らしてしまう。
だけど……自分から切り出すことはどうしてもできそうになかった。小夜に嫌われたようにミチルに嫌われるのは嫌だ。もうそんなことは嫌だ。
その日の最後の授業は体育で、学校指定の体育着に着替えるために、クラスのみんなが更衣室に向かっていた。体育は普通の授業より肌が露出することが多いからあまり好きではなかった。春人はいつも誰もいなくなった教室でこっそり着替えている。だからこの日も皆がいなくなるまで頑なに自分の席を動かないでいた。
皆が続々といなくなる中、最後に残ったのはミチルだった。ミチルも席について、少しも動く気配を見せない。
「……着替えに行かないの?」
春人が控えめに訊ねると、ミチルはくすくす笑った。
いたずらをする子どものような顔だった。すごく見覚えのある笑顔だ。
「授業サボったことってある?」
春人の質問には答えないでミチルが机に頬杖を突きながら聞いてくる。春人は戸惑いながら頷いた。
「……一日だけ、ある」
「あはは! それ、俺も知ってる……理由は俺しか知らないやつ……そうだね?」
そうだよ、って言い返したら、笑って覗き込むように見つめられる。
「今日が記念すべき二回目、っていうのは、どう……?」
交わった瞳は、好奇心と期待に満ち溢れていた。それが純粋すぎて、春人は少し笑ってしまった。今日一日、ずっと感じていた、クラスの中にいる居心地の悪さを一瞬忘れることができた。
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