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死ぬほど嫌

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 ブレザーを脱いでおけばよかったと心の中で後悔したって遅い。

 男は確かめるように春人のネクタイを乱雑に解いてシャツのボタンを外した。前髪で隠れていた左目を曝け出される。この方がいいって、分けられた前髪が、こんな乱雑に掻き上げられるなんて……? ミチルの笑顔がフラッシュバックする。胸の奥が、ずきんと傷んだ。なにやってんだろ、って思わないこともない。

 でも、あの日見た野乃花と寄り添うように並んで離れていくシルエットが頭から離れてくれない。靴底にへばりついたガムみたいに。全然離れない。

「本物だ」

 彼の中にあるICHIKA像と春人の容姿は重なり合ってしまったらしい。

 男の手が腕に触れた。腕の裾を上げられる。春人を殴ったキャップの男が息を呑むのが分かった。

「汚ねえ」

 春人は思った。僕は汚い。いつも言われる馴染んだ言葉。頭の中で反芻すれば自然と強気になれた。失うものなんてなにもないんだ、と。

 キャップの男の股間に擦り寄って、慣れた上目遣いで見つめる。チャックに手をかけた。二人とヤるのは久しぶりかもしれない。

 ピアスの男が春人の服を乱雑に脱がせながらぼやく。

「着てねえのかよ」

 ベビードールのことだとすぐに分かった。ICHIKAと言ったら泣きぼくろと、傷と、それからベビードール。

 僕だって着ている方が良かった。本当は着てない時にはしたくない。無防備な気がして、死ぬほど嫌。

「タダでやらせてくれんの?」

「鞄を返してくれるなら。今日は特別……でも、内緒にしてくださいね。タダでやらせてくれるなんて垂れ込まれたら、僕、安い人間だと思われちゃうし……」

「ふうん……?」

 嫌な予感がする。なんとなく。

 そんなことを思ったところで、もう後の祭りだ。どう考えたって今ここで春を売る方が、小夜の鞄を荒らされて身元を特定されることよりもダメージが少ない。もう片足を突っ込んでしまったんだ。乗りかかった船というやつ。

 春人は自分に言い聞かせる。

 快楽に溺れろ、と。

 追え。

 そして全部、忘れてしまえばいいんだから。

 僕は忘れることができる。

 小夜はもう家に着いただろうか。






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