26 / 103
4
アイスクリーム
しおりを挟む春人はビルの並んだ碁盤の目のようになっている角を何度も何度も曲がった。これで巻けはしないけれどおそらく時間は稼げる。大通りまであと一歩のところで春人は廃ビルの影に入って止まった。
肩で息をしながら額に流れる汗を拭った。小夜もはだけたブラウスなんか少しも気にしないで息を吸っていた。
「……怖かった……」
息を正しながら小夜は大きな目からぽろぽろと涙を零し始める。小夜とは出身中学もクラスも部活も一緒でなにかと縁があるけれど、泣いている顔を見たのは初めてだった。
だけど動揺している時間はない。
「なんでこんなところに来たの、危ないって分かるでしょ」
春人は小夜のブラウスのボタンを閉めてあげた。小夜は少しも動じないでただ泣いていた。彼女はちょっとマイペースなところがある。
「だって、期末考査が、終わったから、……ご褒美に、アイスクリームを……買おうと思ったのよ……」
「アイスクリーム……?」
春人は顔をしかめた。
「最近、お店ができたの、ここらへんに」
「学校の近くのサーティーワン・アイスクリームで我慢しなよ」
「サーティーワン・アイスクリームじゃ嫌だったの……趣向を変えたかったのよ……もうポッピングシャワーには飽きたの……でもコットッキャンディは季節じゃなくて……」
「ねぇごめんなに言ってるのか全然分からない……とりあえず走って、あっちの方に」
指をさした先は学校の方角だ。小夜にも帰り道は分かるはず。そう思って指さしたけれど小夜はすごく不安そうな顔をしている。
「もう追いつかれるから……!」
春人は動こうとしない彼女を叱咤するように叫ぶ。小夜は頑なに首を振った。足音が近付いている気がする。焦りが込み上げてきた。
あの男達を僕なりの方法で食い止めるには、小夜には消えてもらわなければならない。
「依田くんは……?」
「鞄取り返してくるから」
小夜はぼろぼろ泣いていた。可哀想な小夜。せめてトラウマになりませんように。
春人は微笑んだ。
「小夜ちゃん、走って……明日学校で鞄を渡すから……もうここに来ないで、家に帰って」
「でも……」
「Haagen-Dazsで我慢しろ!」
小夜の華奢な背中を押す。小夜は呻いた。大丈夫、膝は笑ってない。
走れる。小夜は実際のところ相当力もあるし足も速い。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
お試し交際終了
いちみやりょう
BL
「俺、神宮寺さんが好きです。神宮寺さんが白木のことを好きだったことは知ってます。だから今俺のこと好きじゃなくても構わないんです。お試しでもいいから、付き合ってみませんか」
「お前、ゲイだったのか?」
「はい」
「分かった。だが、俺は中野のこと、好きにならないかもしんねぇぞ?」
「それでもいいです! 好きになってもらえるように頑張ります」
「そうか」
そうして俺は、神宮寺さんに付き合ってもらえることになった。
魂なんて要らない
かかし
BL
※皆様の地雷や不快感に対応しておりません
※少しでも不快に感じたらブラウザバックor戻るボタンで記憶ごと抹消しましょう
理解のゆっくりな平凡顔の子がお世話係で幼馴染の美形に恋をしながらも報われない不憫な話。
或いは、ブラコンの姉と拗らせまくった幼馴染からの好意に気付かずに、それでも一生懸命に生きようとする不憫な子の話。
着地点分からなくなったので一旦あげましたが、消して書き直すかもしれないし、続きを書くかもしれないし、そのまま放置するかもしれないし、そのまま消すかもしれない。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる