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芒さん
しおりを挟む「春人の素直な答えが聞きたい」
体が熱くなる。なんでもお見通しみたい。
春人はふた呼吸置いた後に、控えめに呟いた。
「紫色が好き」
「うん、紫……春人にすごく似合うと思う。特に優しい紫色が……藤色とか」
ミチルが元気に言った。恥ずかしくなってしまった。あんまり見ないでほしい。慣れない気持ちに襲われるから。どきどきする。なにかが溢れてしまいそう。
スマートフォンが鳴った。
名前を見て凍りつく。春人は立ち上がった。
「ごめん」
ミチルを置いて人の少ない階段の近くまで駆けていく。急いで応答した。
連絡の返信を忘れていたことを思い出す。彼が電話をかけてくるのは、そうとう機嫌を損ねさせてしまった時だ。後悔しても遅い。
「取るのが遅くなってしまって、ごめんなさい」
恐る恐る声を出す。端末の向こうの無言の空間にざわざわする。なにも言われていないのに震えそうになる。
『……春人ですね』
一度聞いたら忘れられない声が聞こえてきた。
「はい……こんばんは……芒さん」
『なにをしていたのですか』
つららのような声だった。間違いない。すごく怒っている。
「……勉強をしていました」
『外のようですが?』
声が震える。
「外で……していました……」
『誰と?』
「……ひとりで」
深い夜のような間があった。
『ふうん……まあいいです』
春人は浅くため息を吐く。
『いつ会えるんでしょうか? 芒は春人にこんなにじらされることは初めてですから、とても困惑しています』
「……二週間後にはお会いできるかと思います」
『いいえ、今すぐ来なさい』
いつもなら「分かりました」と言ってすぐに芒のところへ行ける。
でも今は嫌だった。どうしても嫌だった。芒の命令とミチルの約束を天秤に乗せる。答えが出せない。そのうちにも端末の向こうで芒が苛立っている気がしてはらはらした。
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