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友達

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 ひっきりなしにスマートフォンが鳴っている。

 カフェで向かい合わせで勉強をしていたミチルが首を傾げた。どうしたの、と目が訴えている。春人は渋々スマートフォンを取った。

 ここ一、二週間は名前も覚えていない相手の誘いは無視をしている。諦める者ももちろんいたけれど、この期に及んでまで執拗な相手からの内容は狂っているものばかり。正直思うが脅迫なんてしたってなんの意味もない。だってセフレ、なんて……お互いに弱みがあるんだから悪いようになるはずがない。独身ならまだしも、ねえ。連絡が来れば二つ返事で了承してばかりいたから、断られ続けるなんて思ってもなかったに違いない。男同士だって相手なんてたくさんいるはずだ。それにも関わらず自分にこだわって連絡をくれることは、鬱陶しくはあるけれど嬉しくないって言ったら嘘になる。嬉しいって気持ちもあるけれど、心のどこかでしらけている。渇いている。申し訳ない気持ちもある。ごめんなさい。

「だれ?」

 着信履歴を見ていたらミチルが小さな声で聞いてきた。

 みなまで言えるわけがない。気まずくなって笑顔でごまかした。

「……気にしないで」

「同じ人? 出ても構わないのに」

「……ううん、違うんだ、平気」

「友達多いんだね」

 ミチルが笑った。太陽を反射した水しぶきのようにきらきらしている。

 胸が苦しい。全然違う。正直言って友達は多い方ではない。友達という言葉でぱっと思い浮かぶ人物は一人しかいなかった。たった一人の友達だ。友達、だよね。だけどきっと、その友達だってこんな秘密を知ったら絶交されてしまうかもしれない。

 三年くらい前、中学の頃までは結構誰とでも仲良く遊ぶことができたけれど、今は一人でいることの方が多い。その方が気楽だし、クラスメイトとも当たり障りのない関係を築いていると思っている。別にいじめられているわけではない。不満はないし、満足しているかと言われれば満足している気がする。

 だからむしろ今こうやって誰かと勉強していることの方がよっぽど違和感があった。

……ほんと、なんで僕なんだろ。

 不意に視線を感じて春人は思わず振り返った。

 めぼしい人は誰もいない。ため息が漏れる。

 ここ何か月かの間、たまに誰かに見られているような感覚があった。だけど怪しい人影を見つけられない。困惑する。



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