5 / 103
2
息を殺して生きていきたい
しおりを挟む眠ったら起きられないと思って一睡もしていない。快楽と苦痛で溢れた時間は、六万の金にはなった。だけど本当は金なんていらない。生活には困っているけど。そういう問題じゃない。それは分かる。でもどういう問題なのか自分ではもう分からない。
下腹部にはまだ違和感があるし、痛みで座るのも難しそうだった。
なんとかシャワーを浴びて何度も何度も血が出るくらい体を擦ったけれど、男の匂いと精液の香りがこびりついて取れない。取れていない気がする。安形にこの匂いが伝わったらどうしようと思えば思うほど、こうして背負われているのも怖くて怖くて仕方がなかった。
安形が歩き始めた。どこへ向かって? ……もう考える力がない。
一定のリズム。人をひとり背負っているのに軽やかに跳ねる足踏み、五月の風みたいな爽やかな香りに混じった安形の心地いい体温。冬に向かい始めた季節だということを忘れてしまいそうになるくらい穏やかで、ここにずっといたいと体から力が抜けていく。
そんなのはダメだ。
ああでも、どこか遠くへ行きたい。
ここじゃないどこかに。
でもそれもできない。してはいけない。する筈がない。だって。
あと一時間もすれば一限目が始まる。一限目は古典。予習をしなければ指名された時に答えに詰まってしまうかもしれない。そんなことになったら教室中から注目されてしまう。視線と無言の弾劾。とてもじゃないけど耐えられない。
静かに暮らしたい。日の目を浴びないで、影の方で、誰にも見られないで注目されないで、息を殺して生きていきたい。
はやく教室へ行かないと。
教室へ……。
*
気づいたら見慣れない光景が視界に広がっていた。一度も見たことのない場所だ。
自分がどこでなにをしているのか分からずに混乱する。
真っ先に思ったことはとうとうあの人に監禁されてしまったのかということだった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる