4 / 103
2
至極当たり前のこと
しおりを挟むでも寝過ごすわけにはいかないし、なにかを食べたいという気にもなれない。
体調が悪いことは学校を休む理由にはならない。行かなければならないところへは行かなければならないし、やらなければならないことはやらなければならい。至極当たり前のことだ。
頭では目まぐるしく思考が行ったり来たりするけれど外に出てこない。声を出す元気もあまりなかった。出ないということは、きっとそういうことなんだろう。
そうこうしているうちに安形は滑らかな手つきで春人を背負った。ずきん、と下半身に痛みが走って思わず体がかじかむ。呻き声が出なかったのは奇跡だ。たぶん気付かれていない。気付かれるなんてことあってはならない。
頭では場面を把握できるけれど、どうしても体を動かすことが難しい。
背負われたということは、さっき安形が言った場所へ連れて行かれることになる。
連れていかれるのか……保健室に。背中に嫌な汗が流れた。
「やめて」
声が出せた。
掠れた声で言うと安形が立ち止まって背負っている春人の方を向く。
「でも……」
口では抵抗するけれど体は全く無抵抗だ。どうにもできない。春人は首をなんとか振った。
保健室は行けない。
根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だ。答えたら多分この高校にはもういられない。高校にいられないということは卒業できないということだ。それはどうしても避けたかった。避けたかった、と言うよりは、あり得ないんだ。そんなことは。卒業しなければならないんだから。
今すぐ安形の背中から降りて全然平気だよって、普段やってるみたいに笑って逃げ出せたらよかったのに、今回ばかりは体が動かなかった。
「お、ねがい……教室に……」
教室に行って予習をしないと。本当は昨日の夜やる予定だったのに帰って来られたのは朝だった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪



皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる