ICHIKAのトルソーとハニーレモンフレーバーの夜想曲

紫野楓

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至極当たり前のこと

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 でも寝過ごすわけにはいかないし、なにかを食べたいという気にもなれない。

 体調が悪いことは学校を休む理由にはならない。行かなければならないところへは行かなければならないし、やらなければならないことはやらなければならい。至極当たり前のことだ。

 頭では目まぐるしく思考が行ったり来たりするけれど外に出てこない。声を出す元気もあまりなかった。出ないということは、きっとそういうことなんだろう。

 そうこうしているうちに安形は滑らかな手つきで春人を背負った。ずきん、と下半身に痛みが走って思わず体がかじかむ。呻き声が出なかったのは奇跡だ。たぶん気付かれていない。気付かれるなんてことあってはならない。

 頭では場面を把握できるけれど、どうしても体を動かすことが難しい。

 背負われたということは、さっき安形が言った場所へ連れて行かれることになる。

 連れていかれるのか……保健室に。背中に嫌な汗が流れた。

「やめて」

 声が出せた。

 掠れた声で言うと安形が立ち止まって背負っている春人の方を向く。

「でも……」

 口では抵抗するけれど体は全く無抵抗だ。どうにもできない。春人は首をなんとか振った。

 保健室は行けない。

 根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だ。答えたら多分この高校にはもういられない。高校にいられないということは卒業できないということだ。それはどうしても避けたかった。避けたかった、と言うよりは、あり得ないんだ。そんなことは。卒業しなければならないんだから。

 今すぐ安形の背中から降りて全然平気だよって、普段やってるみたいに笑って逃げ出せたらよかったのに、今回ばかりは体が動かなかった。

「お、ねがい……教室に……」

 教室に行って予習をしないと。本当は昨日の夜やる予定だったのに帰って来られたのは朝だった。



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