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Ⅶ
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しおりを挟む目を閉じて川の流れに耳を傾ける。昔もそうだったように、川のせせらぎは自然と心を落ち着かせてくれた。
ノエルが言っていたことを思い出す。
僕は顔を上げて翔を見た。
「そういえばノエルが水切りしたいって言ってた」
翔はノエルが? と聞き返した。すごく嬉しそうだった。
「じゃあ今度三人でまたここに来ようか、水切りって下流の方がいいんだよね? それだったらちょうどいいし」
「喜ぶと思う」
「優月は水切り得意なの?」
「したことないよ」
「え? 俺もできないよ。ノエルに教えられないじゃん……ちょっと練習するか」
選ぶ石にもコツがあったような気がする、と言いながら翔は僕を自立させて立ち上がる。独り言をいいながら、良さそうな石はないかと桜の花弁が入り混じった地面を見回す彼に言った。
「翔、僕、たくさんいろんなところに行きたい。いろんなことしたい。三人で、一緒にいたい」
翔は僕を見上げると同意するように笑って頷く。あどけない笑顔だった。
「勿論いいよ、大賛成。でも二人ですることは?」
「ちょっと黙ってくれる?」
「ごめんなさい」
僕の反応を見て楽しんでいる翔が立ち上がる。
静かに腰を落として水面を見晴るかしていた。手にはそれなりに平べったい石。
「いけそう?」
「分からない、でもやってみる。手裏剣投げる感じ?」
ノエルが水切りを忍者みたいって言っていたのを思い出す。
なんかおかしくて笑ったら、翔が釣られるように笑って体のバランスを崩した。
不恰好なフォームで投げた石が、青空を反射した水面の向こうに飛び出していく。
酷い有り様だね、って、僕らはまた笑った。
完
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