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Ⅶ
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しおりを挟む話に夢中で気がつかなかったけれど、いつの間にか河辺に辿り着いていた。最後に来た時には咲いていなかった大きな桜の木が乱れるように咲き、零れた花弁が薄桃色の絨毯を作っている。
透き通った川の淀みにも縁取るように花びらが浮いていた。水面が反射する碧空の色が、花びらが落ちるたびに小さく揺れていた。
ひしひしと感じる寂しさと鮮やかさが重力を伴って僕の背中にびっしりと張り付く。思わず膝を折りそうになった途端、また強い春風が吹いて僕たちの側を力強く通り過ぎていった。
乱れる桜吹雪を目で追ったら、翔がキラキラした笑顔で僕を見下ろしている。
「優月はいつも俺の背中を押してくれる。見たことない景色を見せてくれる。感じたことのない気持ちを教えてくれる。俺を成長させてくれる。俺にはないものを与えてくれる」
影になった彼の顔に、その目の輝きは一層輝いて見える。
「だから俺、優月が好き」
彼の表情の一つ一つが、映画のワンシーンみたいに、僕の脳裏に焼き付いていく。
「またこうやって、会えて嬉しい。出会えて、俺を好きになってくれて、選んでくれて……本当に嬉しい」
僕はこの人と答えあわせをしなければならないと強く思った。
「僕は君と会ったことがあると思う」
自分から一歩彼に近づく。
「子どもの頃に」
手を取って、彼の表情や拍動を一瞬でも見逃さないようにと顔を近づける。
彼の頬の下にある薄い傷跡を目にしながら、僕は一呼吸置いて彼に言った。
「僕の髪を切ってくれたのは君だよね」
彼より僕の方がドキドキしているのが分かった。
天の川みたいな彼の瞳が月の満ち欠けのようにゆっくりと細まった。
「そうだよ」
その言葉がいつまでも耳にこだまして消えない。
やっぱり翔は、あの時僕を救ってくれたあの子だった。
「こうして再会したのは君が僕を探してくれたからなの?」
僕は震える声で彼に問う。
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