DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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「あんなに啖呵切ったけど、正直明日から気まずいな」

 僕はバツが悪くなって笑った。

「大学で絶対に白い目で見られる、構わないけど」

「大丈夫、俺が守るよ」

 翔はあっけらかんとそんなことを言う。

 僕は目を見開きながら彼の顔を見上げた。彼は少しも冗談を言っているような雰囲気ではない。

「毎日僕の引率をしてくれるっていうの」

 冗談で言ったのに、翔は真面目腐った顔で頷く。

「いいよ、もちろん、なんなら一緒に住んでもいい」

「君の生活はどうなるの」

「なんの問題もない」

「……どうして?」

「俺も優月と同じ大学に通うから」

「……え?」

 考えもしなかった答えが返ってきて言葉を失う僕に、翔は嬉しそうに目を細めて元気よく笑うんだった。

「受験受かった」

 ピースまでしてる。

「もうすぐピカピカの一年生だよ!」

 開いた口が塞がらない。言いたいことがたくさんあるけど整理するのに時間がかかるので、とりあえず取り急ぎ、おめでとう、と動揺する気持ちを落ち着かせて言った。

 翔はありがとう、と言う。

「僕と君がこの街で初めて合った時、この街に来ていたのは、そのためだったの?」

「うん、試験会場の下見で用があった」

「でも君、マダムのお店に泊まっていたよね?」

「うん。ノエルに会ったからね。その週の週末に試験だった」

「ばかなの?」

「ばかでーす!」

「学部は?」

「医学、小児科医になりたいんだ」

 信じられない。いろいろな意味で信じられない。

 他愛ない会話みたいに振舞っているけど、与えられた情報量が多すぎる。

 彼が僕の後輩になるのだということもびっくりだ。でも、だとしたら年上だと思っていたかと言ったらそうでもない。同じ歳、って感じでもない。年下って言われるのが一番しっくり来るような気がする。今までも子どもっぽいな、あどけないなって思う一瞬はあったけど、そういう理由だったのか、って妙に納得した。

 いくつでも翔は翔なんだ。

 そしたら落ち着いてきた。




 
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