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Ⅶ
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しおりを挟む僕たちはみんなが向かう桜並木とは反対方向へ向かって歩きだした。
駆けだした足はいつの間にか歩きになったけど、翔は僕の腕を離さなかった。僕の反応を伺うようにじりじりと僕の手のほうへ彼の手が伸びてくる。
僕はその反応を横目に見て照れ臭くて笑った。
もう逃げないよ。
繋がった手を僕の方から絡めると、翔は嬉しそうに笑った。
隣あって人気のない河辺へ向かって歩いていく。僕が以前失踪したあの河辺に行こうって翔が言った。ここからだと近いし、桜の木も咲いているからちょうどいいと思って同意した。
道すがら、僕は彼の顔をちらちらと伺った。彼の頬にはやっぱり見に覚えのある傷がうっすらと残っている。
僕は彼と答え合わせをしてみたい。
彼はかつて、僕のことを「最初で最後の特別な人」なのだと言った。
その真意が知りたいと思った。
だけど話の糸口が見つからない。
普段あんなに饒舌な翔も、今日に限って特段話しかけてこない。
それでも手を絡めながら二人で並んで歩くことはとても心地が良かった。
ふわふわしている。
変な気分だった。
翔が突然口を開いた。
「そのリボン可愛いね」
彼は僕の胸元の珊瑚色のリボン帯に目をやって言った。
「ノエルが結んだみたいだ」
そう言って目を細めて笑った。
僕は少し驚いて頷く。
「そうだよ、ノエルが結んでくれた。お揃いなんだ」
「よく似合ってる」
ノエルにも似合うだろうな、と彼は言った。
「本当に? らしくない、って、蕗ちゃんが言ってた」
聞こえていたよ、と翔が笑う。
「捉え方は人それぞれだからね」
「……否定してくれないんだね」
「することじゃないよ。誰がなんと言おうと蕗はらしくないって思ったし、俺はすごく似合っていて可愛いと思ったってだけ」
確かにそうだ。
「優月自身はどう思う? それが一番大事」
嫌なら解けばいいし、好きなら結んでおけばいい、と彼は言った。
「らしくないと思うけど、可愛いし大切だから付けておく」
「それでいいさ。誰もそれを否定する権利はない」
翔はなんでもないことのように言った。
僕はたったそれだけのことを、今まで自分の中でずっとずっとくすぶって苦しんでいた。
一度やってみれば、そんなに難しいことではないのだと分かった。
翔が教えてくれたんだ。
翔と一緒にいられる世界に飛び出してよかったと思った。
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