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Ⅵ
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しおりを挟む僕の気持ちを、言うんだ。
「……でも……僕は」
「あたし見たわ」
彼女は僕の弱々しい反論を軽々と遮った。
私見たわ、と彼女は言った。
「先週駅のプラットフォームで、樫崎くんは翔くんのキスを拒んでいた」
僕はさあっと血の気が引いたのを感じる。
「それで叩いたのよね、あの子のこと」
蕗ちゃんは僕の背中の向こうにいる翔を指差して言う。
「翔くんは女の人と電車に乗って、いなくなった。全部見ていたの」
彼女の言葉が僕にグサグサと刺さっていった。
これはハッタリじゃない。
全部事実だ。
僕自身が体験した事実と変わらない。
「おかしいと思わないの? 樫崎くん」
おかしい?
「見たから分かるよね? 普通は、男の人が男の人にキスしようとなんかしないよ。女の人まで連れていたのに。だから翔くんは、いろんな意味で普通じゃないよ」
普通じゃない……。
「叩いてしまうくらい樫崎くんは酷いことをされたし、翔くんは叩かれるくらいの酷いことをするような人なの」
前にも同じ言葉を言われたことがある。
その時僕は言い返すことができなかった。
今もその時と同じように言葉を失っている。
「樫崎くんは、普通の男の子よね?」
ガラスのビンが割れるような声で彼女は言い放つ。
蕗ちゃんになにを言うことが最善なのか分からない。僕は助けを求めるように翔のほうを見た。汗がこめかみから流れていく。
さっきまであったはずの意気込みとか勇気とか僕の気持ちとか、全部どこかに行ってしまった。僕は蕗ちゃんに投げかけられた言葉全部を否定したくて仕方がない。
僕は普通だよ、変じゃないよ、おかしくないよ、って。
言ってしまったら、僕はどうなる?
僕の視線を感じ取った翔は首を少し傾けて、困ったように微笑した。
「俺も見たよ。昨日お前と蕗と、手を繋いで歩いてた」
息を止めることができればどれほどいいだろう。
逃げ出したい衝動に駆られた。
「……ちが、う」
「違わないわ! 歩いてた! その後お団子を一緒に作った、そうでしょ! 今日のお花見のために! ずっと前から約束していたの!」
蕗が真っ向から否定する。
苦しい。逃げたい。今すぐ逃げたい。だけど脚が地面に張り付いたみたいに動かない。
なにをやってるんだろう。
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