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Ⅵ
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しおりを挟む「僕、ちゃんと翔にごめんなさいって、謝るよ。それで……もっと仲良くなりたいって、お話しする。だから、また三人で遊ぼう。今年は難しいかもしれないけど、来年でも、再来年でも、絶対に三人で花見をしよう。約束するよ」
ノエルの頬が林檎色に染まる。細められた瞳が飴細工のように一瞬艶めくと、僕に向かって勢いよく抱きついた。
「うん! だいすき!」
反動で僕は地面に腰をついてしまった。
僕も大好きだよ。ノエルのことが大好き。
とても……ありがとう。
「おにいちゃん! またね!」
ちょっと遠くのほうで、ノエルが僕に手を振って笑いかけている。
桜の花びらに紛れていく小さな彼に手を振り返した。
「またね」
僕が笑って言い返すと満足そうな顔をして、うさぎを連れた僕と同じリボン帯をしている少年は母に手を引かれて街角の向こうへ蜃気楼のように消えていった。
僕は一人になった。
それで、考えた。
これからどこへ行けばいいのかを。
どこへ行きたいのかを。
電車から降りてきた人の並がまばらになってゆく。次の電車は十分くらいあと、ほんのささやかな短い静かな駅前の時間に、ただ強い風だけが吹いていた。快晴。雲はある。このあともきっと晴れ。
僕には分かる。
今日は最高の花見日和だって。
早く蕗ちゃんたちと合流したほうがいい……そう思っても、さくら並木のあるほうへ、なかなか足が進まなかった。僕は物憂げに、桜の名所がある南のほうを見た。
駅前の広場を抜けて、南の方へ……蕗がいる方をなんとなく歩く。小径に出て、線路を跨いで数メートル歩いて立ち止まった。
少しだけ桜並木の浮かれた喧噪が近づく。
僕はこっちに行くべきなの?
蕗ちゃんたちのいる方へ、行きたいの?
僕はどうしたいんだっけ。
あれ?
僕は……?
俯いたらコーラルピンクのリボン帯が視界を掠めた。
桜に紛れて消えていった少年との約束を思い出す。ついさっきのことなのに、はるか昔の約束のようにも感じた。
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