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Ⅵ
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しおりを挟む正直言って戸惑った。でもノエルがすごく幸せそうにしているのを見ると、やっぱりこの人はノエルの母親なのかもしれないとも思う。マダムとは全然タイプが違うけど、目が合って笑いかけられた瞬間、ああ、となんだか腑に落ちてしまった。真っ赤な口紅が塗られた口元はシズクさんに少し似ている。柔らかい髪はマダム似で、大きく涼やかな瞳は、まさにノエルの母親、といった感じだ。
僕はこの人のことを信頼することにした。
「くびのかわいい!」
ノエルが彼女の首元に巻かれスカーフを指差して言う。彼女は旅先で買ったの、と言いながらノエルの首になんの躊躇もなくスカーフを巻いてやった。
女性ものの、華奢な春物のスカーフだ。桜色で品がある。ほんの少しだけ冷たい春風が下のほうから吹き上がって彼女の髪とノエルの首に巻かれたスカーフが舞い上がった。
僕は塞ぎ込みそうになる思いをぐっとこらえた。
「かわいい?」
ノエルが母親に満面の笑みで問いかける。
母親はノエルと視線を合わせるようにして屈むと、優しく頭を撫でるんだった。
「ええ、とても似合っているわ」
「やったー!」
僕は二人の幸せそうな光景を目に移していたら、自分でも知らないうちに泣いていた。
意思や思考とは遠く別のところで、目から涙が溢れているという事実を物理的に感じ取る。全然よくわからないけど、涙と一緒に僕の心の奥底で腐っていたものがどんどん洗い流されていくような気持ちだった。
ノエルの母親が素敵ね、可愛いわね、と優しく笑っている。
ノエルはそれを享受して幸せそうにしていた。
「じゃあこれはノエルのものにする!」
母親は静かに、今だけね、と言うんだった。
僕は二人から背を向けて涙を必死で止める。
彼らを羨ましいと思うには僕の追憶はあまりにも過去なのだ。僕の過去はこの瞬間に色を変えたような気がした。
よかった。
僕は許されたような気がした。そしたら、すぅっと涙が桜の花びらと一緒になって散っていった気がする。
前を向いたら、ノエルの母親と目が合った。
「かぐやと申します。息子のノエルがお世話になりました」
かぐやさんは深々と頭を下げたので、僕も連なって頭を下げる。
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