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Ⅴ
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しおりを挟む「ノエルの魔法はすごいわね」
「え?」
「貴方に言っていた『元気になる魔法』の他に、『嘘を吐けない魔法』もかけていた」
僕は恥ずかしさをもっと具体的に自覚してしまった。
食べかけのゼリーに目を落として狼狽する。
ノエルは本当にすごい人だ。
「私からもあげる」
手を出して、と彼女がいうから、僕は不思議に思いながらも手を伸ばすと、彼女は優しく僕の手を取った。温かくて年季の入った、羨ましいくらいに尊い手だった。
僕はマダムを見て首を傾げる。なんだろ、と思ったらマダムは手を握ったまま手首にしてあったブレスレットを僕の手首に移しかえたんだった。
木でできた丸い小さなビーズのブレスレットで、濡れても乾きやすい丈夫なワインレッドのリボンが結び目についている。マダムがいつもしているブレスレットだった。
僕の手首につけてもあまり窮屈じゃない。
「シズクにもらったの」
僕はびっくりして目を見開く。
「大事なものじゃないですか。こんな大切なもの受け取れません」
「いいの。大切なものは、大切な人に渡したいから。それに私にはもう必要のないものなの」
彼女の手が離れていく。有無を言わさない圧倒的なプレッシャーを感じた。力では敵うかもしれないけれど、やっぱり僕はマダムに一生頭が上がりそうにない。
「木には魔よけの力があるのよ。幸せになりたい時には、これを触りなさい。そうすると、幸福になれるわ。私はもう幸せだから、必要ないのよ」
「慶秋さんも、同じようなこと言っていた」
僕は呟く。
「私が教えたの」
マダムが笑う。
「彼、かつて私の恋人だったのよね」
は?
口を挟もうとした途端、彼女は僕の口を塞ぐかのように言葉を覆いかぶせてくる。
「今度はカケルを選ぶことができそう?」
僕の邪な思考は一気に彼女の発言に上書きされる。
「……それはその時になって見なければ分からないけど」
口をすぼめていった。
「だけど気持ちは伝えようと思います。……また会えると思うから……ううん、僕が会いに行くくらいの気持ちでないと……僕はもう動けないたまごじゃないんだし、彼に会う方法なら、あると思うから……。人に変化を求めるより、僕が変わった方が、ずっと気持ちいいんです」
彼女は嬉しそうに笑うんだった。自分のことみたいに。
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