69 / 104
Ⅴ
15
しおりを挟む「ノエルが作っ、てくれたゼリー……食べ、たかった……翔に、会いたかったよ……! ノエルとマダムと、お菓子、食べたかったよ……! 翔に会い、たい……! 謝り、たい……!」
ノエルは小さな手で僕の頭を撫でてくれる。
「好きだよって、伝えたいよ……!」
雨水がアスファルトを跳ねるみたいに出た言葉は、空気を震わせてもう一度僕の耳に入って来た。自分で紡いだ言葉なのに、僕はこの時初めて本当の意味で、翔のことが好きなのだと気付いたんだった。口に出してしまったら、ずっと見ないふりをして来た思いが津波のように押し寄せてくる。
自分でも驚くくらい、翔のことが好きだった。
「あはは! おにいちゃん、はなみずー!」
自分の感情に驚きながらも納得していたら、ノエルが大きな声で僕のことを笑った。
「僕は鼻水じゃない」
ベッドサイドに置いてあるティッシュで鼻をかんでいたら、ノエルがまた笑う。
「なきむしー!」
「泣き虫だよ!」
「どうしてなの?」
「わかんない」
「いたいところあるの?」
「ある」
「どこ」
「全部」
全部痛いわ。
この二人に出会った日からやり直したいと思った。でも後悔しても遅いと思う。後悔したって、あったことをなかったことにすることはできない。時間を巻き戻すことなどできない。
ノエルがベッドの上で膝を突いて腕を掲げた。
なにをするんだろ、と思った矢先、大きく息を吸い込む。
「いたいの、いたいのー……とんでけー!」
破顔しながら、僕はまた涙が出そうになった。
自分ってこんなに涙もろかったっけ。
「飛んでったよ……ありがとう……」
「じゃあもう、なかない! うるさいから」
「辛辣……」
ノエルは笑っている。
笑ってるんだ、朝まで、あんなに腫れ物を触るような目で僕を見ていたのに。
不思議だった。
ノエルが変わったわけじゃない。彼はいつでも怖いくらい素直で正直だから。
変わったとしたら、僕だ。
僕が変わったから、ノエルはまたこうやって笑ってくれた。
一歩踏み出すことは怖いことだ。
世界を壊すのも、死ぬほどに恐ろしいことだった。
でも、踏み出してみると……壊してみると……案外こんなものか、って気持ちにもなった。僕は今なら、自分の気持ちを素直に、誰にでも正直に、伝えられそうな気がした。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる