DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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「ノエルが作っ、てくれたゼリー……食べ、たかった……翔に、会いたかったよ……! ノエルとマダムと、お菓子、食べたかったよ……! 翔に会い、たい……! 謝り、たい……!」

 ノエルは小さな手で僕の頭を撫でてくれる。

「好きだよって、伝えたいよ……!」

 雨水がアスファルトを跳ねるみたいに出た言葉は、空気を震わせてもう一度僕の耳に入って来た。自分で紡いだ言葉なのに、僕はこの時初めて本当の意味で、翔のことが好きなのだと気付いたんだった。口に出してしまったら、ずっと見ないふりをして来た思いが津波のように押し寄せてくる。

 自分でも驚くくらい、翔のことが好きだった。

「あはは! おにいちゃん、はなみずー!」

 自分の感情に驚きながらも納得していたら、ノエルが大きな声で僕のことを笑った。

「僕は鼻水じゃない」

 ベッドサイドに置いてあるティッシュで鼻をかんでいたら、ノエルがまた笑う。

「なきむしー!」

「泣き虫だよ!」

「どうしてなの?」

「わかんない」

「いたいところあるの?」

「ある」

「どこ」

「全部」

 全部痛いわ。

 この二人に出会った日からやり直したいと思った。でも後悔しても遅いと思う。後悔したって、あったことをなかったことにすることはできない。時間を巻き戻すことなどできない。

 ノエルがベッドの上で膝を突いて腕を掲げた。

 なにをするんだろ、と思った矢先、大きく息を吸い込む。

「いたいの、いたいのー……とんでけー!」

 破顔しながら、僕はまた涙が出そうになった。

 自分ってこんなに涙もろかったっけ。

「飛んでったよ……ありがとう……」

「じゃあもう、なかない! うるさいから」

「辛辣……」

 ノエルは笑っている。

 笑ってるんだ、朝まで、あんなに腫れ物を触るような目で僕を見ていたのに。

 不思議だった。

 ノエルが変わったわけじゃない。彼はいつでも怖いくらい素直で正直だから。

 変わったとしたら、僕だ。

 僕が変わったから、ノエルはまたこうやって笑ってくれた。

 一歩踏み出すことは怖いことだ。

 世界を壊すのも、死ぬほどに恐ろしいことだった。

 でも、踏み出してみると……壊してみると……案外こんなものか、って気持ちにもなった。僕は今なら、自分の気持ちを素直に、誰にでも正直に、伝えられそうな気がした。





 
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