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Ⅴ
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しおりを挟む「僕だって本当は、ノエルといたかったよ」
僕の不満げな声にノエルは反応した。むくりと起き上がって僕の方を向く。ずっと横になっていたみたいで、前髪が右の方に流れて癖になっていた。彼は僕を醜いものでも見るような表情で見上げている。
「だったらどうしてノエルといなかったの!」
ノエルは怒っていた。あからさまな敵意と拒絶を感じた。
「だいきらい!」
彼は僕に吐き捨てて黒うさぎを抱きしめる。僕に背中を向けて壁になったように動かなくなった。
僕は涙が出そうだった。
なんで?
僕はあんなに苦しい思いをして、別に食べて欲しくもない人たちのために別に気がのっているわけでもないのにいっしょにいる事が楽しいわけでもない人と頑張ってお菓子を作ったのに。
なんで僕はノエルに嫌いって言われなければらないんだ?
こんなにこんなに頑張ってるのに……!
「しょうがないじゃん、だって、前から約束してたんだもん……!」
僕は拳を握りしめながら、涙が溢れないように下唇を噛んだ。
「蕗ちゃんが、無理矢理約束してきたんだから……僕だって、行きたく、なかった……! いつもだよ、僕の予定とか気持ちとか少しも考えないで、勝手に約束してくるんだよ! しょうがないじゃん……! 蕗ちゃんは僕が約束を断るとすごく嫌な顔をするんだよ! 女の子の機嫌をとるのがそんなに悪いことなの? なんで、嫌いなんて言うんだよ……! 悲しいよ、酷いよ……僕だって、本当は……!」
子どもに向かって何を言ってるんだろって思った。
言ったって、過去は変えられない。
あったことをなかったことにすることはできないように。
過ぎ去ったことをどれだけ悔やんだってやり直すことなどできないのに。
過去と他人は変えられないのに。
変えられるのは未来と自分だけなのに。
分かってるのに……!
僕はぼたぼた落ちてくる涙をごしごし擦って、目尻を押さえた。
嫌だな、もう。
たまごの中から負け犬の遠吠えするの。手に入らないとラベリングした、自分が変われば手に入れることができる未来を指咥えて見てるの。
それを全部、世界のせいにするの。
嫌だな。苦しいし。後悔しかしてないし、嘘で胸が張り裂けそうだし。
「……違う」
僕は悲しい気持ちを怒りに変換して、何一つとして罪のない、こんな可愛くて愛しい友だちに向かって当たり散らしている。
……馬鹿だ。
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