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Ⅳ
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しおりを挟む「もう話さないで!」
僕は怖くて怖くて苦しくて辛くて、彼の言葉を遮るように叫んでしまう。
みんな聞いてる。全部聞いてる。
「やめてよ! しつこい!」
僕らを軽蔑した目で見てる。
「……ごめんな」
翔の声。震えてた。悲しそうだった。
我に返って顔を上げると、眼鏡のない、彼の顔が、僕を見て、申し訳なさそうな顔をしている。目がつやつやしている。目の縁に沿って、溢れそうな涙が水面みたいに夕日を反射させていた。僕が叩いた頬が赤くなっている。
僕は前にも彼にこんな顔をさせたと、強く思った。
電車が目の前を走っていく。強い風が吹いて、耳鳴りがするような音が通っていった。
「ちが、う……違う……翔……」
僕の声は小さすぎて、翔には届かない。
本当に言わなければならない言葉は出てこない。
停車した電車の扉が開く。
僕らを置いて人々が乗降を始めた。
「行くわよ」
女の人の声が聞こえたと思ったら、翔が引き摺られるようにして動く。
「あれ絹ちゃん? ……なんでここに」
絹って人だ。昨日の電話口の人だ。
翔が大好きだよ、と言っていた人だ。
僕は思わず下を向いてしまった。
「逃げると思って迎えに来たの。扉が閉まるから早くして、もう逃がさないわよ」
「今の見てた?」
「見てた、ダサいし相手が可哀想」
「マジのトーンで言うのやめてくれる? 泣くからよ」
「諦めればいい、選び放題でしょ」
「優月は一人しかいないんだよ」
「いいから一人で歩いてくれる? 扉が閉まるわ」
扉が閉まる……?
僕ら、これでさよならなのか。
呆然としながら顔を上げた。閉まりかけた扉の向こうで、翔が僕を見ている。
目が合った。
彼は僕のせいで赤くなった頬の上に涙を一筋こぼしながら、切ない顔で笑っている。確かにこの絵面はダサい。で
もそのダサさに勝る気持ちが溢れて止まらない。
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