DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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「もう話さないで!」

 僕は怖くて怖くて苦しくて辛くて、彼の言葉を遮るように叫んでしまう。

 みんな聞いてる。全部聞いてる。

「やめてよ! しつこい!」

 僕らを軽蔑した目で見てる。

「……ごめんな」

 翔の声。震えてた。悲しそうだった。

 我に返って顔を上げると、眼鏡のない、彼の顔が、僕を見て、申し訳なさそうな顔をしている。目がつやつやしている。目の縁に沿って、溢れそうな涙が水面みたいに夕日を反射させていた。僕が叩いた頬が赤くなっている。

 僕は前にも彼にこんな顔をさせたと、強く思った。

 電車が目の前を走っていく。強い風が吹いて、耳鳴りがするような音が通っていった。

「ちが、う……違う……翔……」

 僕の声は小さすぎて、翔には届かない。

 本当に言わなければならない言葉は出てこない。

 停車した電車の扉が開く。

 僕らを置いて人々が乗降を始めた。

「行くわよ」

 女の人の声が聞こえたと思ったら、翔が引き摺られるようにして動く。

「あれ絹ちゃん? ……なんでここに」

 絹って人だ。昨日の電話口の人だ。

 翔が大好きだよ、と言っていた人だ。

 僕は思わず下を向いてしまった。

「逃げると思って迎えに来たの。扉が閉まるから早くして、もう逃がさないわよ」

「今の見てた?」

「見てた、ダサいし相手が可哀想」

「マジのトーンで言うのやめてくれる? 泣くからよ」

「諦めればいい、選び放題でしょ」

「優月は一人しかいないんだよ」

「いいから一人で歩いてくれる? 扉が閉まるわ」

 扉が閉まる……?

 僕ら、これでさよならなのか。

 呆然としながら顔を上げた。閉まりかけた扉の向こうで、翔が僕を見ている。

 目が合った。

 彼は僕のせいで赤くなった頬の上に涙を一筋こぼしながら、切ない顔で笑っている。確かにこの絵面はダサい。で
もそのダサさに勝る気持ちが溢れて止まらない。





 
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