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Ⅳ
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しおりを挟む彼はきっと昨日話した『絹』という人に会いにいくに違いない。どうして、なんのために? 聞けば済む話だけど、それを話すには僕が昨晩翔の電話をしているところを盗み見ていたことを打ち明ける必要があった。それに、僕が彼に彼が帰った後のことを言及したところで、きっと彼が明日からいないという現実は変えられないだろう。
だったら聞いても聞かなくても同じなのではないだろうか。
そうやってまるで腑に落ちるような言い訳をして、心のもやもやに蓋をしている、僕は意気地なしだから。そのほうが楽だから。
「そういえば翔は、本当はどこに行くために紫針駅にいたの?」
僕は僕の気持ちを見ないふりするために翔に話を振った。
「気になる?」
質問に質問で答えるのはずるい。僕が抗議の目を向けると、翔が声を出して笑う。眼鏡越しにもすごくあどけなく見えて、表情も鮮明に感じ取ることができる。彼の万華鏡みたいに変わっていく感情が、僕には少し眩しい。
「実は白萩に来るためだったんだよね、ノエルと行き先が同じだったわけ」
意外だったので、え、と間の抜けた言葉しか出なかった。
「もうだいたい分かったから大丈夫。ちょっと歩いて見たかったんだ」
僕はあえて言及しなかった。長くなりそうだったから。残りの僅かな時間にもっと他に話すべきことがあると感じたから。
「いろいろお世話になりました。どうもありがとう、楽しかった」
翔は元いた場所に帰っていく。僕は首を横に振って、とんでもないよ、こちらこそと言った。
ノエルは、しばらくはマダムの店にいるそうだ。それはつまり、僕がノエルの面倒を見るということを意味している。僕は明日から始まる翔のいない日々を思った。
「ノエルと上手くやれそうにないって顔してる」
翔が僕の顔を覗き込むように顔を傾けてくる。目が合った瞬間、にやりと笑われた。どんなことでも見透かされてしまいそうだ。
僕は彼から少し距離をとるように身を引く。人の視線が気になったから。知り合い以上に思われやしないかはらはらしている。
「だって僕は……翔みたいに子どもの扱いに慣れてないから」
「そういうふうに思わなくていい」
「え?」
「言葉で線引きしなくていい。『子ども』じゃなくて、『ノエル』を見ればいい。ノエルは優月のこと好きみたいだし、優月もノエルが好きでしょ」
僕は頷いた。少し不安だったけれど、ノエルのことは嫌いじゃない。
「じゃあ大丈夫、友達だ」
翔の笑顔って素敵だ。どんな曇り空だって晴れにしてしまいそう。
「翔ってすごいよね」
いろんな気持ちが混ざった言葉だった。満たされたコップから水が溢れるみたいに口をついて出てきた。
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