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Ⅲ
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しおりを挟む彼は川を挟んだ向こう岸にいて、びくびくしながら僕に「あの、」と声をかけてくる。びくびくするなら話しかけなければいいのに。僕は化け物だ。人ならざるものだ。ほんとにね、自分というものを見失って、宙ぶらりんな、お化けと一体なにが違うんだろう。
放っておいてくれればいいのに。彼はあろう事か、返事のない僕に近付いてきた。
川を渡ってきたんだ。
怖かった。
怖かった怖かった怖かった。
だって、また、僕。
またあの白い目を向けられるの?
気味の悪いものでも見下すような目だ、僕の存在を真摯に否定する態度だ。
嫌だった。
嫌だし痛いし、痛いし、嫌だし。
放っておいて。
「大丈夫……? 血……」
手が伸びてくる。僕は反射で、傍にあった石をつかんで、彼の顔に………。
「いっ……つ……!」
彼の顔の半分から、赤い液体が流れていて、僕はごめんなさいと呪文のように呟いて……逃げてしまった。
僕は。逃げた。
変わんないな。
逃げるのだけは得意だ。さっきも逃げた。逃げてここにいる。現実に真っ向から挑む勇気がないから。一人で途方もなく考えて、一人で一喜一憂して、それで世界を分かった気になっている。相手を分かった気になっている。
卑怯者で弱虫で、ゴミクズだ。
こんなんだから化け物って言われるんだ、こんなだから。
こんなだから……!
肩にとん、という衝撃が走った。昔のことを考えていた僕は、激しい動悸と心臓の音と逆流するような血液の流れの熱さに翻弄されながら、咄嗟に衝撃のあった方向に向かって握り拳を振り上げる。
とす、という優しい音が衝撃を緩和していた。誰かに拳を受け止められていた。
僕は青ざめる。
「……ごめんなさい」
また僕は僕自身の身の保身のために全く関係ない誰かを傷つけてしまうところだった。いや、ところだった、じゃない。
「ごめん、なさい、ご、めんな、さい……ごめんなさい」
傷つけようとしたんだ。僕はほんとにあの頃からちっともなにも変わってない。
見てくれが変わっただけ。時間の流れに比例して大きくなっただけだ。
肩で息をしながら、溺れるような息苦しさを感じているのに、それでも口は止まらない。
「ごめんなさい……!」
「いいよ」
息を呑んだ。
その声でハッと現実に戻る。僕今どこにいるんだっけ? と思ってあたりを見渡した。あたりはすっかり暗くなっている。
夜の闇の中で、月明かりが川の水面に反射してキラキラ輝いていた。
顔を上げると、翔が一言で形容できないような複雑な顔をして僕の拳を受け止めて、僕を見ながら笑っているんだった。
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